物を押す力、『圧力』の話です。
私に言わせると、船の機関プラントシステムは「圧力と温度の世界」です。機関室の様々な機器やパイプライン内に圧力と温度が存在し、それらを24時間常時、制御・監視しているのが船の機関です。各機器には適正な圧力や温度があり、その値の変化から異常の有無を判断することができます。また、適正に維持することにより各機器の安定した運転が可能となるのです。もちろん、これらは機関部に限った話ではありません。甲板部でも非常に重要なファクターです。
航海士は甲板関係の機器の適切な圧力・温度を把握している必要があります。例えば、消火ラインの圧力、雑用空気の圧力、清水の圧力、バルブ遠隔操作用油圧ポンプの圧力、甲板油圧機器の圧力、操舵機油圧ポンプの圧力、安全弁の設定圧力、ポンプの吐出・吸入圧力等々です。これら甲板関係各機器の適切な圧力は航海士の常識です。当然、おおよその値ぐらいは知っておく必要があります。
わずかな圧力でも決して甘く見てはいけません。例えばカーゴホールド内の圧力が1kPa(0.01kg/cm2)とします。たった1 kPaと思っていてもハッチを開けると、その圧力のためハッチが急激に開いて付近にいた人に直撃するような事故が起こることもあります。ハッチの大きさが縦1m x 横1mとすると面積は10,000cm2となり、10,000cm2 x 0.01kg/cm2 = 100kgの力がハッチに働いており、人間一人の体重分以上の力です。1kPaといっても面積全体で見れば予想以上に大きな力が働いているのです。
圧力ゲージには3種類のタイプがあるのを知っていますか?日本語で言うと「連成計」、「圧力計」、「真空計」の3種類です。英語で「Compound Gauge」と呼ばれる「連成計」とは、どんなゲージでしょうか?下写真のように (Pressure)と負圧(Vacuum)の両方を指示できるゲージのことです。
「連成計」以外に圧力ゲージとして、正圧だけを指示する「圧力計(Pressure Gauge)」、負圧だけを指示する「真空計(Vacuum Gauge)」があります。ですから、単純に「圧力計」と言えば、正圧だけを表示するPressure Gaugeを意味することになります。船ではこれらの3種類の圧力ゲージをそれぞれの用途によって使い分けています。
昔はVacuumの単位にmmHgを使用しているCompoundゲージがほとんどで、ゲージのVacuum側はmmHgで表示し、76まで赤い数字(目盛り)で表示されていました。しかし、現在のCompoundゲージは下の写真の通り、赤い100までの数字(目盛り)で表示されています。
昔はバラストやカーゴの排出時にポンプのVacuumが200mm以下まで下がってくると、ポンプに負担が掛かっているという感覚がありました。皆さんはkPa単位のゲージを使っていますが、マイナス何kPaになると私と同じように「ああ、ポンプが無理しているなあ。」という感覚になりますか?航海士の常識として把握しておきたい圧力数値です。