『錨鎖』の話をいくつか。
皆さんはチェーンロッカー(Chain Locker:錨鎖庫)を覗いたり、実際に中に入ったりしたことがありますか?錨鎖全量が庫内入った状態ではいつ錨鎖が崩れ落ちてくるか判らないので、むやみに入るのは危険ですが、Chain Lockerのアクセスハッチを開けて中を覗くことは何時でも可能です。
入渠の際にはDry Dock底に錨鎖を全量繰り出して、チェーンロッカー内の泥揚げや掃除をするので、中に入る機会もあります。是非、機会があれば、チェーンロッカー内部、特に錨鎖の根付けがどうなっているか、あるいは、ビルジ排出装置はどこにあるのか自分の目で確かめて下さい。
あなたの乗船している船には、ボースンストアー内のチェーンロッカー付近に大きなハンマーを準備していますか?
ハンマーをチェーンロッカー付近に準備していない船はないと思いますが、念のため本船にハンマーが用意されているか、自分で確認してください。捨錨時にこの大ハンマーが必要となります。捨錨時には大ハンマーでEnd Link(Clench Cable)のピンを叩いて抜けば、錨鎖は根元からすっぽり外れます。
錨鎖を途中で切る場合はケンターシャックルを2分割にしますが、錨鎖全量となると根付けのピンを抜きます。捨錨するような体験はあまりないでしょうが、いざと言う時にはEnd Linkのピンを抜いて捨錨することも想定しておいて下さい。その他にもボースンストアーには予備錨鎖、スイベル、錨鎖用シャックル、ケンターシャックルが置かれているはずです。これらも設置場所やその数を一度自分の目で確かめておいてください。
投錨・揚錨作業時には過去、大きな事故が発生しています。係留作業、投錨作業、救命艇降下作業の3つが甲板部作業の中で、重大海難事故の発生頻度が非常に高い作業です。
そんな危険な投揚錨作業ですが、錨鎖方向についての話を一つ。錨が船底に着くと、船首配置の航海士(C/Oや1/O)は錨鎖の方向と立ち上がり角度を船橋に報告します。このとき、「やや張っている」、とか「強く張ってきた」と報告されても抽象的であいまいで、錨鎖がどれだけの張り具合か船橋では理解し難いものです。そこで錨鎖の立ち上がり角度で言えば、報告を受けた船長にもどれぐらい錨鎖が張っているのかが正確に想像できます。「錨鎖、1時の方向、立ち上がり角度80度」「錨鎖、2時の方向、立ち上がり角度60度、強く張ってきました。」と報告を受ければ錨鎖がどのような状態かを全員が明確に共通認識できます。