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下船時のフィリピン人船員の現金が狙われている

外国人船員の『家族送金』の話です。

フィリピンという国は7000以上の大小様々な島々からなる群島国家です。フィリピン人船員が住む島として有名な島には、ルソン島、セブ島そしてミンダナオ島があります。下船してミンダナオ島の家へ帰るフィリピン人船員が言っていましたが、ミンダナオ島は他の島に比べて治安が非常に悪く、家へ着くまでにせっかく船で貯めた大金を奪われることがあるそうです。そのための自己防衛策として大金をお腹のまわりに巻きつけて帰ります。

強盗も手馴れたもので、空港を降りたところから船員であることを嗅ぎつけて付け狙い、貴重な現金を奪っていきます。単身で大きな荷物を持って移動するので、誰から見ても船員だとわかるのかも知れません。ミンダナオ島はフィリピン南部に位置し、イスラム教信者が多い島ですが、治安が悪いということは、それだけ人々の生活が貧しいということを意味しており、フィリピンでも南北によって貧富の差があるのかも知れません。特にマニラ付近と他の島ではその生活レベルに大きな開きがあるはずです。

下船時に大金を持って降りるのが嫌な人や乗船中に急いで家族へお金を送りたい人のために「特別家族送金」という制度があります。特別家族送金を英語では「Special Remittance」と言います。フィリピン人乗組員がよく利用する制度で、乗船中の給料(POB:Pay On Board)の一部を家族に送金する制度です。フィリピン人船員は乗船中に船長から給料として毎月数百ドルの現金を受け取るので、下船までには数千ドルという大金が貯まります。それをすべて自分の小遣いにできれば良いのですが、そうはいきません。家を建てたり、子供を学校に通わせるために大金が必要な場合、乗船中に彼らが一生懸命に貯めたPOBまで必要となるのです。

奥さんから送金依頼の催促があるのかどうか知りませんが、乗船中でも自分の小遣いを家族に送付できる制度がそのために設けられています。ときどきフィリピン人乗組員から急に家族送金を申し出てくるケースがあります。それは乗組員家族の誰かが急病で、入院・手術することになり、その費用が必要となる場合です。彼等は国に帰れば非常に高給取りなので、家にそれぐらいの蓄えはあると思いますが、不思議と家族が急病になったために家族送金するケースが非常に多いのです。私が思うに、おそらく彼らは自分が一家の大黒柱として家族にしてやれるせめてもの務めとして家族送金をしているのでしょう。ですから、ほんとうに必要なお金は他の乗組員から借金してでも家族送金するフィリピン人乗組員が多くいます。

家族送金をするときのお金の流れですが、例えば、フィリピン人乗組員が船内で貯めた現金1,000ドルを船長に預けます。船長はその1,000ドルを船用金として船内金庫に入金します。そして船長がマニラオフィスの担当者に連絡すると、同額の1,000ドルをマニラオフィスが家族の指定する銀行に入金します。これで、乗組員から家族のもとへ1,000ドルの現金が渡ったことになります。乗船中ながら自分の貯めた給料を家族のもとへ送金できる便利なシステムです。

しかし、この「Special Remittance」では家族の銀行への入金がUSドルではなくフィリピン現地の通貨であるペソで振り込まれることから、手数料をたくさん取られたり、ドルとペソの交換レートが悪かったりします。大金なので目減り額も馬鹿にできません。そこで目減りすることを嫌って、下船するフィリピン人船員に個人的に現金を託して家族へ送金してもらう人も結構多いようです。いくら同じ釜の飯を食った同僚と言えども大金を預け・預かるのは気を使うと思います。他人事ながら帰路道中での盗難が心配ですが、下船者に大金を預けてトラブルになったという話を今まで聞いたことはありません。

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