氷を溶かすには、高温の蒸気?それとも低温の水?

極寒冷海域の航行による『船体着氷』の経験がありますか?

私自身は若い頃に北米航路のコンテナ船で数回経験がある程度で、船体着氷の経験は久しくありません。冬季にベーリング海を航行すると、向かい風で波しぶきが船首に吹きつけて凍りつき始め、一晩経って夜が明けるとびっくりするぐらい船首のウィンドラスその他の構造物に着氷して、一面が白銀の世界になっていました。

海水は塩分を含んでいるので0℃では凍りません。-3℃以下で着氷し始め、-6℃以下で急激に着氷速度が加速します。そして、意外なことですが、-16℃以下の極低温になると着氷が発達しません。なぜなら着氷は波しぶきが船体にかかり、それがどんどん大きくなるものです。しかし、-16℃以下の極低温では波しぶきが船体に付着する前に空気中で凍ってしまい船体を覆う前に風で飛び散ってしまうからです。-3℃以下の極寒海域で航行していて着氷させたくないならば、船首方向から波しぶきを受けないよう進路調整を行う必要があります。

LNG船で冬場のサハリン航路に就航している船がありますが、この船では北緯45度以上の北の海域で北風による波しぶきが甲板上に吹き付けて一晩で着氷することがあります。下の写真はそのときの着氷の様子です。甲板上が氷の世界になってしまいました。

入港までの間に自然と溶けてくれれば良いのですが、もし、入港のS/Bまでに溶けない場合、ウィンチやウィンドラスが使用できません。着氷によって入港遅延となっては一大事です。そこで、乗組員自らが人海戦術で氷を溶かす作業を行います。

一見、蒸気は非常に高温なので氷を溶かすために最も有効な手段のように思えます。100℃近い高温の蒸気で氷を溶かせば、あっという間に溶けるのではないかと考えます。ところが、実際に蒸気で氷を溶かすには非常に時間と手間がかかってしまいます。甲板上の大量の氷は少々の蒸気ではなかなか溶けず、寒さが厳しければ使用している蒸気がドレンとなって凍ってしまいます。

蒸気よりも便利で早く氷を溶かすには海水が一番効果的です。5~10℃の冷たい海水でも意外に蒸気よりも早く氷を溶かすことが可能です。そして、作業員を多数確保できる場合は、人海戦術としてハンマーで氷を割ります。氷を溶かすには蒸気より海水が手っ取り早く、効率が良いことは経験して初めてわかることです。

蒸気よりも海水の方が効率が良いと言いましたが、同じような話の例として、オートバイのエンジンには水冷と空冷の両方がありますが、水冷の方が効率は良いのです。船の係船機の油圧ポンプユニットにも空冷と水冷の2種類があります。ボースンストアーに海水によるLOクーラーを設置している船と設置していない船があります。海水冷却タイプのクーラーでは季節によって夏場と冬場で海水弁(入口弁・出口弁)の開度を調整します。夏場はバルブ全開で、冬場は適当に絞りますが、夏場になっても海水弁を多めに開けるのを忘れて、作動油温が上昇してリミットを超えてしまい、ポンプがトリップするというトラブルがときどき発生します。海水冷却タイプは海水弁の調整忘れに要注意です。

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