会社や上司が部下である『航海士に求めている人材』の話です。
ある本に書いていましたが、企業が求める人材は以下のような人物だそうです。
- 人前で話すことや、初対面の人と仲良くなることが得意な人
- 体を動かすことが好きで、機敏な動作の人
- 細かく点検し、確認し、慎重に行動する人
- 大きな目標を立て、粘り強く、競争心が強い人
- 精神的に強く、平常心を保てる人
企業が求める人材はこの5項目のタイプだけではないでしょうが、列挙した5項目いずれもが船乗りにも求められる人物像であることは間違いありません。以前に私が思い描いている理想の船長像や一緒に乗りたくない船長像について紹介したと思いますが、ここでは立場を変えて上司である船長やC/Oから見て若手航海士の好ましい人物像、好ましくない人物像について紹介しましょう。
絶対に一緒に乗りたくない船長、まっぴら御免の船長但し、以下はあくまでも私個人の意見です。私が是非また一緒に乗船したいと思った航海士は沢山いますし、できれば、もうご遠慮したいと思った航海士も沢山います。そこで、まず、是非また一緒に乗りたいと思わせた航海士像を私なりに整理してみました。
何か仕事を頼んだら、「もう出来たの?」と驚くぐらい素早く仕事をこなす部下は上司にとって非常に頼もしい存在です。もちろん手抜きをして早いのでは意味がありません。甲板部員を上手に使って要領よく現場の仕事を片付け、ペーパーワークも迅速にこなす部下は上司にとって非常に有り難いものです。大量の報告書や記録をさらりと仕上げる若い人を見ると上司の信頼度も数段階アップです。
現場の不具合をスピーディーに改善する部下に上司は全幅の信頼を寄せます。逆に誰が見ても明らかに簡単にできる仕事を「何をぐずぐずしているの?」「まだ、やっていないの?」と思わせる人、あれこれ悩んで何も前に進んでいないように見えてしまう人、あまりも慎重過ぎて、あるいは丁寧過ぎて、こちらが待ちきれないほど時間をかけて仕事をする人は歓迎されません。
仕事は早いだけでは十分でありません。その内容の正確性も問われます。迅速性と正確性の両面で仕事は前に進みます。正確性について言うと、仕事の出来る人はイージーミスの少ない人と言っても過言ではありません。報告書を作成しても誤字脱字が少ない人、計算書を作成してもミスが少ない人は上司の厚い信頼を獲得できます。逆に出来上がった書類がいつも間違いだらけでは、上司の信頼を得ることができません。
現場仕事のスピードが早くても一定の成果が出ないと、良い仕事とは言えません。いくら早くても間違いだらけの仕事では意味がないのです。ヒューマンエラーが事故につながることが多い船の仕事ですから、正確性が一定以上のレベルに維持されていることは船の安全にとって非常に重要なことです。結局、「早く」と「正確に」の両方のバランスが重要となります。
船では過度に緊張する場面や大きな精神的負荷がかかる仕事が多くあります。そのような仕事をするときでもあわてず、落ち着いて仕事をする人は上司が見ていても頼もしく安心です。練習・訓練すれば沈着冷静になれるというものでもないでしょうが、ある程度のレベルまでは日頃の鍛錬によって冷静さを身に付けることができるはずです。
逆に妙に不安げに見える人、あまり自信がなさそうな人、浮ついたり、興奮して明らかに冷静さに欠けている人は上司が安心して見ていられません。船上における専門技術を巧みに扱うプロとして、常に沈着冷静に仕事をこなして欲しいものです。
上司が気が付いていないことや普段から誰も思いつかなかったアイデアをどんどん出して、その不便さや不具合を改善しようと努力して、実際にその成果をあげている人は上司の評価も上がります。例えその結果が無駄に終わっても前向きな姿勢・態度が良いのです。普段、他の人が慣れてしまって変えようとしないこと、これで当たり前と思っているものを、より良く、より安全に、より簡単にする方向へ改善するアイデアを思いつき、それを少しでも実現できる人は上司にとって頼もしい存在です。
日頃から船長やC/Oとの会話が頻繁で、上司との公私にわたる何気ない会話の中で、さりげなく上司の考え方や行動パターンを理解して、上手く上司と付き合える人は当然のことながら、上司に気に入られます。日頃から上司への報告や相談を行い、現状の問題点や今後の仕事の進め方等大枠の流れを上司と共通の認識を持ち仕事を進めることが重要なのです。船の仕事は単独プレーだけでは務まりません。上司から聞いた経験や知識の中から妥当で有効である部分を自分の仕事に取り入れる部下を上司は歓迎します。もちろん上司の知識や考えが全て正解とは限りませんので、そこは正しい見極めが必要です。
船長やC/Oの立場になると現場からの意見や情報がだんだんと少なくなります。特に部員から船長へあがってくる情報は極端に少なくなります。船内で起こっている些細なことや部員から入手した細かな情報を上司に報告してくれる部下は頼りになります。労務問題や人間関係に関する船内で表面化せずに起こっているトラブルの多くを部下からの報告によって上司は初めて知ることになります。
そして、上司が情報を早く得ることができれば、事態が深刻になる前に問題の早期解決につながります。例えば、乗組員同士の不仲な関係、家族にトラブルがある乗組員、外国人乗組員各人の性格、考え方、技量等を日頃から把握しておくためには部下からの貴重な情報提供が不可欠です。
以上、私が考える「上司にとって好ましい航海士」の人物像を紹介しました。次は、私の目から見て『上司にとって好ましくない航海士の人物像』を紹介しておきます。船には様々な性格や価値観を持った人が一緒に乗船して、助け合いながら仕事をしています。しかも、年齢が親子以上に離れた世代の人達が混在しているのです。そんな人的環境の中でどのようなタイプの部下を上司は望んでいるのでしょうか?そして、どのようなタイプの部下を上司は駄目だと考えているのでしょうか?
船長や主任者に様々なタイプの人がいるように部下にも様々なタイプの人がいます。
また一緒に乗りたいなあと思わせる人もいれば、この人とは正直、もう勘弁して欲しいと思わせる人もいるのが現実です。そんな、ちょっとご勘弁をと思わせる航海士像を私なりに整理して、以下の通り列挙してみました。
人の話は最後まで聞くものです。上司のアドバイスをろくに聞かずに、自分の経験や価値観だけで判断してしまい、上司の質問に対して、すぐに「絶対に・・・です。」と言い切る人がいます。そんな人にかぎって間違いが多いような気がします。亀の甲より年の功です。上司や先輩の経験や助言に耳を傾けて、それを自分で十分に吟味してから総合的に判断するのが通常のパターンです。自分の方が正しいんだ、自分にはこのやり方しかないんだという決め付けを直ぐにする人は、危険な状況に陥る可能性があり、ご遠慮願いたいものです。
気に入った上司・部下と気に食わない上司・部下で、その対応に極端に差を付ける人は困りものです。人と人の関係には必ず相性があり、気に入る・気に入らないの差が生じます。しかし、社会人であり、海上技術のプロ集団である私達はそれを極力表面にださずに坦々と職務を遂行すべきです。気に入らない上司にはとことん逆らって噛みつき、無視し、気にくわない部下をこれでもかと理不尽にパワハラでいじめるような人はご遠慮願いたいものです。誰とでも分け隔てなくFairに付き合って欲しいものです。
上司の前では完全服従で素直な態度を見せておきながら、部下、後輩に対しては先輩風を吹かせて、厳しく当たるような人はご遠慮願いたいものです。人としてどうかと思います。おそらく部下から慕われることなく、嫌われていることでしょう。世渡り上手にもほどがあります。相手を見て、極端に態度を変えるような人は上司から信頼されません。
自分のおどおどしたり、イライラしたりする雰囲気は周囲の人に必ず伝わります。いかにも自信なさげな態度や言動を部下に目の前でされると、上司はそれだけで不安になります。「みえ」や「はったり」だけの人になってはいけませんが、ある程度は自分に自信を持って良いはずです。例え結果は同じでも、何事にもびくびくして自信なさげに仕事をする人はご遠慮願いたいものです。不思議と、その自信のない雰囲気は周囲に伝わり、悪影響を及ぼします。
皆さんは喜怒哀楽を顔の表情や態度で表していますか?よく言われるのが「最近の若い人は顔に表情を出さないので、何を考えているのかわからない。」です。喜怒哀楽を表に出さない人は上司に怒られているときも、無表情なので、反省しているのか、不満があるのか、納得しているのか顔色から推し量ることができません。
上司は部下の心の中まで読むことはできないので、やはり顔の表情がある程度の判断基準となります。ある意味、求められている沈着冷静さと背反するかも知れませんが、顔の表情もコミュニケーションにおける表現力の一つですので、ある程度豊かな表情が欲しいところです。自分の感情を顔の表情に出さない人は不気味で理解不可能なので、ご遠慮願いたいものです。
船長・主任者と部下の間で報告・連絡・相談が大切なことは言うまでもありません。その大切な報告・連絡・相談が一切なく、どんどん自分勝手に仕事を進めてしまう人がいます。そして最悪の結果になって、事態が手遅れとなってから事後報告にくる人がいます。順調に仕事が進んでいるときはそれでも良いでしょうが、往々にして手遅れとなってとんでもない事態となっていることがあります。基本の「ホウレンソウ」が乏しい人はご遠慮願いたいものです。
報告するのはいいのですが、自分の見解や判断を入れずに報告してはいけません。決してメッセンジャー・ボーイであってはいけません。「・・・が壊れました。」という報告では不十分です。「・・・が壊れましたが、調べると・・・なので・・・します。よろしいでしょうか?」というところまで自分で調査・判断・計画してから報告して欲しいものです。もちろん、一刻を争う緊急事態は例外ですが、可能な限り自分で最後までこなしてから報告して欲しいものです。自分の見解を示さなかったり、判断力が乏しかったりする人はご遠慮願いたいものです。
上司が困っていたり、忙しく走りまわっていても、それは自分の仕事に関係ないと無視する人がいます。また、上司が何に困っているのかと心配もせず、明らかに困っているときでも何の手助けも自ら進んでしようとしない人がいます。こんな人はご遠慮願いたいものです。多くの外国人航海士にこの傾向が見られるのは周知の事実です。日本人である皆さんはそうでないことを信じています。上司とは運命共同体だと思って、一緒に働きましょう。
あまり一緒に乗船したくない部下の人物像を列挙しましたが、皆さんもこれらの中で一つや二つは該当するのではないでしょうか。いろいろ言っている私自信も若い頃の自分はこれらのいくつかに該当していたなあと反省しています。心当たりがあったとしてもあまり気にしないで下さい。列挙した好ましい人物像と好ましくない人物像を頭の片隅に置いて、少しでも上司に頼られる存在になって下さい。もちろん上司に気に入られることが目的ではなく、上司に認められれば、それが自分の自信となったり、やりがいになったりして、結局は自分のためになるから上司に認められようと努力するのです。