細かな数字ですが、無視できない重要な意味を持つこともある『小数点』の話です。
LNG船ではLNGカーゴの検量装置が非常に重要な機器となります。LNGの積荷量・揚荷量はこの検量装置で自動的に計算され、所定の用紙に印刷された数量が正式な積荷量・揚荷量となります。この貨物量が輸出入量として税関にも承認される公式の量なのです。
バラ積船のようにジャコブスラダーにぶら下がってお尻が海水につかりそうになりながら必死でドラフトを読み、事務室に帰ってきてトリム修正等面倒なドラフト計算をしなくてもLNG量がパソコンのボタンひとつで算出できるのです。また、原油タンカーではMMCやマルチゲージを使用するためにサンプリングコックを開けて油の匂いを嗅ぎながら液面レベルや温度を計測しますが、LNG船ではLNGを大気放出するわけにはいきません。そのため、カーゴタンク内に設置されたレベルセンサーや温度センサーが瞬時に各タンクの値を測定し、コンピューターで計算して貨物の数量がはじき出されます。
この検量のことをCTM (Custody Transfer Measurement) と言いますが、プロジェクトによって売り手と買い手の合意のもとで、その検量方法の細かな取り決めをしています。貨物数量の小数点以下を四捨五入 (Round Off) するか切り捨て (Round Down) にするか等々、契約毎に取り決められているのです。LNGカーゴ量の1m3以下の小数点の話なんてどうでも良さそうですが、Commercial Sectionでは見過ごすわけにはいかないようです。
LNGカーゴの価格は重さ(MT)や容積(m3)で決まりません。熱量で取引されます。重さや容積の大小ではなく、カロリーが高いか低いかでLNGカーゴの価値が決まります。その熱量を表すのに商習慣でBTU(British Thermal Unit)という単位を使用します。1ポンドの水を40°Fから41°Fに高めるために必要な熱量で、約1Kcalが4 BTU相当です。
現在のおおよそのLNG価格は1トン当たり90,000円ぐらいですから、大型LNG船で満船まで腹いっぱいにLNGカーゴを積むと、その価格は70~90億円前後となります。100億円弱の貨物の数万円分、1m3以下のカーゴなんてどうでも良いでしょうと言いたくなりますが、それを許さないのがLNG業界です。
そう言えば、皆さんは自分の船で運んでいるカーゴの価値を知っていますか?例えば、自動車船の積荷の価値は意外と高価なのです。4000台積の自動車船では、1台200万円として×4000=80億円です。あの自動車船がLNG船やVLCCと遜色ない、あるいはそれ以上の高価な荷物を積んでいるとは意外な感じがしませんか?
もう一つ小数点が重要であるという例を紹介します。ある2/OがOver Time計算をExcelシートを使用して作成しました。打ち出した時間外集計表を確認するために見てみると、一人だけ明らかに時間外が少ない人がいました。そこで確認のため電卓で計算してみました。すると、やはり時間外の合計時間が合いません。私はもう一度電卓で計算し直しましたが、やはり計算が合いません。
私がパソコンのExcelシートをチェックすると、毎日の時間外の数字の端数に「.」(ピリオド)を入力するところを「,」(コンマ)を入力している間違いを見つけました。「2.5」と入力すべきところを「2,5」と誤って入力しているのです。これではいくらコンピュータでも2.5として計算してくれません。皆さんもコンピューター絶対主義になってはいけません。Excelファイルもときにはセル内の式が壊れたり、書き換えられたりしていることもあります。入力間違いもあります。おかしいと思ったら、Excelファイルを疑ってかかりましょう。コンピューターも入力間違いというヒューマンエラーによってミスを犯します。