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何事も、自信を持って言ったもん勝ちの世の中…

ばら積船の航海士のMain Eventの作業、ドラフトサーベイの話です。石炭船や鉱石船等のばら積船ではドラフトサーベイにより計測した喫水を用いて貨物の積高量を計算します。ドラフトサーベイ時に海面が穏やかな場合には、誰でも容易に喫水を読むことが可能です。しかし、波高が1m以上もある時化た海面では、目視のみでは正確な喫水を読むことは非常に困難です。いやほとんど無理と言っても過言ではありません。そこには熟練した経験に基づく航海士の巧みな技が必要です。

昔からよく言われることは、海面をしばらく見ていると、一瞬海面がぴたりと静かになり、そのときの喫水を読めば正確な値が判るとアドバイスされました。しかし、なかなかそう簡単に海面が静かになってくれません。不規則に上下へ1m以上も変化する状況で正確な喫水を読み取ることは至難の技です。こんな状況でSurveyorと一緒にボートでドラフトサーベイする場合、先に自分が思う喫水を言ったほうが勝ち、言い切ったほうが勝ちです。人間どうしても先に言われた数字にひっぱられる、迎合する傾向があります。ですから自信を持って大きな声で自分が読んだ喫水を主張しましょう。

自信を持った発言、大きな声で主張することが重要であり、人に影響を与えることは間違いありません。しかし、一方で私は「絶対」という言葉があまり好きではありません。「これは絶対にXXである。」と簡単に断言する人がいますが、ときおりそれが間違いや勘違いであることがあります。ほとんどの事象には例外があるものです。「絶対に」と言ってもほとんどの物事には想定外のことがあるものです。

「絶対に」と相手に言われれば、「あれ?おかしいな?」と少し疑問を抱いても、この人がこんなに自信を持って言っているのだからと、ついつい信用してしまいます。ところが「絶対に」と言っておきながら実際は違っているということがわかると、「絶対に」と断言していた人の信用は失墜してしまいます。ですから、私は「絶対」という言葉を使わずに「多分」という言葉を使うように心がけています。「自信ある正しい発言」と「過信の間違った発言」は紙一重というところです。

さて、次は「のど元過ぎれば、熱さを忘れる」という話です。陸上勤務者と海上勤務者で置かれた環境や責務に明確な違いがあります。どちらの立場に置かれてもお互いを批判的に見るのが人間の性かも知れません。船上で働いているときは、陸上担当者への不満たらたらであった人が、一旦、陸上勤務すると、今度は陸から船へ不満を言う側の人になってしまいます。

例えば、船上でトラブルが発生して、船がその対応に追われて全力を尽くしているときに、やれ「報告が遅い」、「対応が不適切」と壇上から物申す陸上社員に、私達船乗りは不満百出です。現場で対応している多くの船乗りが自分が陸上担当者の立場なら、もっと船側に配慮した丁寧な対応・管理をすると言い切ります。しかし、そう言い切った船乗りも、一旦陸上勤務をすると、船を締め付ける立場、船を責める立場となり、船側に配慮の欠けたスタンスで物事を判断するようになります。

船の仕事は結果論が多く、ひとたび事故や怪我が起こると、「船は何をしていた。」、「なぜ、船はそんなことをしたんだ。」と責めを負うことばかりです。「船は良くやった。」「さすがは船乗り、信頼できる。」と評価する陸上担当者は皆無と言っていいでしょう。実際に私達船乗りのたゆまない努力の結果、99%の安全・無事故を維持しても、1%の事故・災害で過度の責めを負うのです。これは紛れもない事実であり、今後も続きます。本来は陸上の仕事は船に責めを負わせるだけではないはずです。陸上にいる船員は船の状況を十分に理解しているはずなので、もう少し、配慮ある余裕のある心で、船員の仕事を信頼して欲しいものです。皆さんも陸上勤務したときには、今一度、胸に手をあてて自分が船上で感じた陸上への不満を思い出してみて下さい。そして、常にフェアで相手(船・陸)側の事情に配慮した対応を心がけて下さい。

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