ライフジャケットではなく、ワークベストと呼んで

私達船員の命を守る『救命胴衣』の話です。

最近はあまり見かけなくなりましたが、舷梯の準備・格納作業の際に、舷外作業者が「ライフジャケット」を着用していないことがあります。自分は海中転落などするはずがないという思いが誰にでもあるはずです。もし100回に1回でも海中転落する事故が発生する作業なら、誰もがLife Jacketを装着して作業をするはずです。いやそんな危険な作業は最初から誰もしません。

しかし、どんな危険が潜んでいてもやらなければならない作業が船上には多くあります。その代表的な作業が舷外作業であり、Gangwayの準備・収納作業です。そばにLife Jacketが置かれていないと、まあいいかという気持ちで、ついついLife Jacketを着けずに作業をしようとする気持ちになります。この「まあいいか」や「ついつい」に危険が潜んでいるのです。

もちろん Life Jacketを着用するのが当たり前となるように乗組員の安全意識を向上させて、習慣付けることが最重要ですが、それに加えて、すぐ手に取って装着できるようLife JacketをGangwayの直ぐそばに置くことも重要です。船によってはGangwayから遠く離れたところに設置されたGear Box内に入れています。

皆さんの船では取りに行くのが面倒なところにLife Jacketを置いていないでしょうか。最近はかなり安全意識が向上したのか、殆どの舷外作業者が言わなくてもLife Jacketを着用するようになったようですが、口うるさく指導する以外にも、このようにLife Jacketの置き場所を変える等のちょっとした工夫で安全性を高めることができます。

なお、余談ですが、作業員が使用する多くの「Life Jacket」は救命設備の認証を受けたLife Jacketではありません。従って、厳密には舷梯作業で使用するLife Jacketは「Work Vest」と呼んで区別すべきです。しかし、最近では下写真のように小型船舶用に開発されたLife Jacketもあります。

これは小型船用として型式承認を得ていますので、小型船では救命胴衣として利用されているものです。ちなみに「型式」は「けいしき」とは読まず、「かたしき」と読みます。また、工業製品の形を意味する場合も「型」を使った「かたしき」となります。

このWork Vestは非常にコンパクトで普段の作業の邪魔になりません。そして自動膨張式で海中に水没すれば自動的にガスにより膨張する勝れ物です。おまけにレーダーで発見され易いようにレーダー反射器も付属しており、風船のように膨らませるとレーダー反射材が長さ2mの棒状になります。海中転落した場合、遭難者を発見するのは容易ではありませんが、このレーダー反射器を使えば、発見率もかなり向上します。

人が海中に落ちて波間に見え隠れする状態では、その人影を波の中ですぐに見失ってしまいます。例えば、少しでも波があるときに海にダンボール箱を投げ捨てるとあっという間にどこに流れて行ったかわからなくなるのと同じです。そのため人が海中転落したら、できれば誰かがその人がどこに浮かんでいるか、その方位を肉眼や双眼鏡で監視し続け、同時にECDIS画面にマーキングすることです。ECDISには素早くマーキングするワンタッチ機能が付いているので、知らない人は一度確認しておいて下さい。

最近はSIREで船内に適当数の「子供用救命胴衣」や「子供用イマージョンスーツ」の搭載を要求されることがあります。皆さんの船にも子供用の救命胴衣やイマージョンスーツを搭載していますか?客船では明確に旅客数の10%以上の子供用救命胴衣の搭載を義務付けています。しかし、一般商船ではその数量までは明確に規定されていません。ちなみに、LSA(Life-Saving Appliances)Codeには、幼児、子供、大人の定義として幼児が「身長100cm以下、体重15kg以下」で、子供が「身長100~155cm、体重15~43kg」、大人が「身長155cm以上、体重43kg以上」と規定しています。


ところで、ある年に全国の港湾で合計4名のパイロットが乗下船時に海中転落して死亡したそうです。転落した原因は手がすべったり、ボートに飛び移るタイミングが悪かったり、様々です。意外なことですが、Pilot Stationで航行中の船舶へ乗り移るときよりも、時化ている海上で錨泊中の船舶へ乗り移るときの方が危険です。

航行している船舶の場合は風向きを見てリーサイドを作ることができ、しかもボートが7、8ノットのスピードで走りながら接舷するので、ボートがあまり揺れない状態で乗り移ることができます。しかし、錨泊している船では船首が風上を向いており、船首方向を変えてリーサイドを作ることは容易ではありません。

そのため、航行中より錨泊中の方が危険度が高くなるのです。万が一、転落したときに自分の命を守るための救命胴衣、しかし救命胴衣は自分のためだけに着用するのではありません。聞いた話ですが、生命保険会社が救命胴衣を着用せずに海中転落して死亡した場合には保険金を支払わないそうです。ですから、救命胴衣は自分の命のため、家族の将来の生活の保障ために着用するのです。

こんな事故もありました。2名のパイロットが下船するときに1名がボートへ移乗し終わったところで、何を勘違いしたのかパイロットボートが本船を離れようとしました。そのとき、たまたまボートがパイロットラダーに引っかかってしまい、その衝撃で二人目のパイロットがラダーから振り落とされ海中転落してしまい、亡くなったのです。もし、ボートがラダーに引っかからなかったら、ニアミスで終わっていたでしょうし、ボート側がパイロットが2名下船することを知っていれば事故は防げたはずです。

パイロットはカバンに荷物を入れて乗船しますが、そのカバンの種類で禁止されているタイプがあります。それはリュックサックです。全国の水先人会共通のルールではないようですが、リュックサックが禁止されている理由は海中転落したときにリュックサックが軽いので、うつぶせで浮かんで溺れ死んでしまうためです。

また、あるパイロットは皮肉を交えて言います。「自分の命を守るためにライフジャケットをつけているのではなく、海上に落ちて仮に死んでも海面を漂って発見が容易で捜索の費用や時間がかからないようにして、関係者に迷惑がかからないようにライフジャケットを付けているのだよ。」 この言葉を聴いて私のライフジャケットに対する見方が少し変わったような気がします。

3/Oの重要な仕事の一つにドラフト計測があります。岸壁へ降りて船首、中央、船尾の喫水を目視で読み取ります。厳しいターミナルでは一人でのドラフトチェックを禁止しており、二人で、かつ救命胴衣の着用を義務付けているところもあります。言うまでもなく、転落事故防止対策です。一人で桟橋を歩いていて、何かの拍子に海中転落しても目撃者がいなければ、悲惨な結果を招くことさえあるでしょう。

ちなみに、何気なく使用している「転落」という言葉ですが、皆さんは「転落」と「墜落」の違いを説明できますか?広辞苑では「転落」は文字通り、ころげ落ちることで、「墜落」は高いところから落ちることです。なんとなくイメージの違いがあります。ある解釈では、傾斜40度が境界線です。傾斜角40度以上の場所から落ちることを墜落、傾斜角40度未満の場所から落ちることを転落と定義しています。ですから傾斜角が40度以上の坂から転げ落ちても墜落ということになります。確かに傾斜角が40度以上もある急な坂では転げると言うより、真っ逆さまに落ちる状態に近いので墜落と言えるかも知れません。

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