危険物積載船に関わりのある赤灯(紅灯)の話です。
しばしば、航海士の間で議論される赤灯です。赤灯の何について議論するかというと、「停泊中に危険物船が昼間にはB旗、夜間には赤色全周灯を点灯させるのは何の法律に基づいているのか?」という疑問です。これを港則法の定めと勘違いしている人が多いかも知れませんが、この旗や灯火を規定している日本の法律は「危険物船舶運送及び貯蔵規則」です。その第五条の七(危険物を積載している船舶の標識)に
湖川港内において航行し、又は停泊する船舶であつて、貨物として火薬類、高圧ガス、引火性液体類、有機過酸化物、毒物又は放射性物質等を積載しているものは、昼間は赤旗を夜間は赤灯を、マストその他の見やすい場所に掲げなければならない。ただし、海上交通安全法(昭和四十七年法律第百十五号)第二十二条第三号に掲げる危険物積載船が海上交通安全法施行規則(昭和四十八年運輸省令第九号)第二十二条の表危険物積載船の項に掲げる標識又は灯火を掲げている場合は、この限りでない。
危険物船舶運送及び貯蔵規則 第五条の七(危険物を積載している船舶の標識)
と規定されています。
この停泊中に赤旗・赤灯を掲げるという規則は国際規則ではなく、日本の国内規則によるものですが、日本の港以外の諸外国の港でも補油作業をしている停泊船が赤灯を点灯させているのを多く見かけます。船に関わる国内規則の多くが国際法に準拠していることから、この赤旗・赤灯の規定は諸外国でも同じような規則を定めていることでしょう。おそらく、IMDG Codeから派生した規則ではないでしょうか?
外国人航海士は日本の法律や規則に精通しているはずもなく、海交法で規定されている危険物積載船の赤色閃光灯と危険物積載船が港内で表示する赤灯を混同して覚えている人もたくさんいます。私達日本人航海士は学校で習い、日本の法令文書も簡単に読んで理解できますが、外国人航海士にとっては細かな規則まで理解するのは至難の技でしょう。ですから、外国人航海士で法律・規則について誤解をしている人がいたら、根気よく丁寧に教えてあげましょう。
赤灯と言えば、夜航海になり、喫水制限船の赤灯3個を点灯しました。そこで若い航海士に赤灯が点灯しているか確認するよう指示しました。するとその航海士は右舷側のウィングから赤灯が3連点灯しているのを確認して、「キャプテン、赤灯3個の点灯を確認しました。」と報告がありました。点灯の確認作業はこれでいいでしょうか?実はその船の赤灯はレーダーマストがあるので、レーダーマストを挟んで左右180度ずつに分かれて設置されていました。ですから右側だけでなく、左側の赤灯3個も左側ウィングに出て確認しなければいけません。こんなちょっとしたことも航海灯の構造を知っていないとできない作業です。
灯火と言えば、スエズ運河を通航するとき、船首に下写真のようなスエズ運河用の探照灯、通称「スエズライト」を設置する必要があります。スエズ運河を航行したことがある人にとっては馴染みのあるライトです。運河航行中に日没を迎えた場合、船首前方を照らすために使用することもあります。 危険物船の場合はもちろん防爆型のものが必要です。(最近はLEDを使った薄型のものもあるようです。)
ところで、IMDG Codeとは「International Maritime Dangerous Goods Code」の略で、危険物の海上輸送について取り決めた国際統一規則です。危険物輸送において世界の各国が勝手なルールを適用していれば、混乱を生じて非常に危険です。そこで各国の規則を取り込んで共通ルールとしたのが、IMDG Codeなのです。このIMDG Codeはコンテナ等容器に入れて輸送する場合に適用される規則ですが、危険物にはその他にもばら積み貨物や液体貨物があります。