繰り返しになりますが、「技術」はわざ(Technique)、「能力」は力(Ability)に該当するものです。この両者ともに大きければ、大きいほど、その相乗効果により「技量(技能):Skill」が高いということになります。船会社が航海士に要求しているのは「技能」つまり「技量」です。以下の図でいうと、縦軸(能力)の伸びだけではなく、そして、横軸(技術)の伸びだけでもなく、両者の掛け算である面積としての広がりを求められているのです。

船の仕事ではこの「技術」と「能力」を掛け合わせた「技量」が求められるのです。しかも、日本人船員同士のみならず、外国人船員と同じ土俵で競争し、「技量」を比較・評価される時代です。
座学だけでは決して技量(技能)が十分に高まりません。実際の船、現場での知識・経験が「技術」を豊富にし、長年の努力・鍛錬により「能力」が高まり、結果的に現場で発揮できる「技量(技能)」が向上するのです。端的に言えば知識・経験・学習が「技術」を高め、努力・鍛錬・訓練が「能力」を高めるのです。
船乗りの仕事は「経験第一」「現場主義」であるとよく言われます。おそらく、技術的なものは知識が主体となり、マニュアルを読んだりして座学で向上していくことが容易でしょう。しかし、それを使いこなす能力は座学や独学で向上するには限界があります。実際に船上で体験したり、先輩に指導してもらったりして初めて高まるものです。自分の肌で感じて自分の頭や体で覚えて能力が高まるのです。だからこそ、一人前の航海士には一朝一夕ではなれないのです。
若手航海士の場合は、「技術」と「能力」が共に不足するか、または両者のバランスが悪いため相対的に技量が低いと言えます。「技術」(わざ)は豊富にあっても「能力」(力)が少ないというバランスの悪い航海士もいます。例えば、マニュアル・手順書はよく知っていても、実際の現場を知らない航海士、頭でっかちな航海士がこれに該当します。「能力」(力)は非常にあるけれども「技術」(わざ)が不足してバランスの悪い航海士もいます。例えば、能力は他の人より優れているのに仕事をやる気がなく、仕事を覚えない怠け者の航海士がこれに該当します。
幾ら様々なTechnique(技術)を勉強しても、それを使いこなすAbility(能力)がなければ何の役にもたちません。それに比べてベテラン航海士になると豊富で多彩な「技術」を効率よく正確に処理する「能力」を有します。従ってベテラン航海士になると、上右側図のように非常にバランスの良い理想的な状態となります。皆さんも「技術」と「能力」を高めて、立派で大きな正方形を描くベテラン航海士になって下さい。