最初は味に不満はない、量が少ないことだけが不満であるといっていたクルーが量に満足しだすと、今度は味や食材の質に文句を言い出したのです。これは別にそのクルーだけに限ったことではありません。人間の欲望は際限ありません。限られた予算の中で大勢の人が同じ食事を取るのですから、全員が100%満足できる食事が提供されるはずがありません。
また、今回の騒動で重大な問題がもう一つあります。当時、船内の食料事情に不満を持った乗組員がマンニング会社へ直訴したことが大問題です。食料に不満があるならば、まず船内で解決すべき問題です。各部主任者や船長に報告すべきことです。それを船長を通さずに自分のマンニング会社へ直訴するのはおかしなやり方です。他の乗組員との間に厚い壁があるのでしょうか?船内で文句を言うことにためらいがあるのでしょうか?船内で解決すべきことを自分のマンニング会社へ直接ぶつけるということを平気で行ってしまいました。
ある船では、急に2nd Cookが下船することになりました。理由がわからないままの下船です。彼が下船してから判ったことですが、その2nd Cookの料理がまずいため、乗組員からマンニング会社へ彼を下船させるよう強く圧力をかけたのです。もちろんそのことを船長以下、士官には報告していません。このような事例が発生するとやはり外国人乗組員との厚い壁を感じざるを得ません。いずれにせよ、食事の不満は可能な限り解消しなければいけない重要事項であることを覚えておいて下さい。
食料にまつわるトラブルと言えば、こんな珍しいトラブルも体験しました。あるLNG船で豪州に入港したときのことです。いつも通りいつものShip’s Chandlerから食料を購入しました。いつもの通りタグボートからコンテナ詰めにされた食料を受取り、乗組員総出でチャンバーに運び始めました。するとChief Cookがあわててやって来ました。「キャプテン、本船が頼んでいないパンやアイスクリームが大量に入っています。」と言うではないですか。そこで調べてみると、何と積込まれた食料は次の日に入港予定の他船の食料だったのです。
その船が豪州人全乗の船だったので、パンやチーズやアイスクリームを大量購入していたようです。原因はタグボートに積込むときに作業員が誤って隣のコンテナを積み込んでしまったためでした。結局、出港前までに本船に積込まれた誤配の食料を返却して正規に注文した食料を積み込むことができて、トラブルにはなりませんでした。もし、本船の食料が用意されていなければ、日本へ帰るまでの食料が不足していたかもしれません。あるいは毎日パンやアイスクリームを食べなければいけなかったかも知れません。最悪の場合、出港時間が遅れる可能性さえあったのです。
