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航海当直 ア・ラ・カルト(横揺れ・トライエンジン・時刻合わせ)

阪口泰弘阪口泰弘

言うまでもなく、『航海当直』は航海士にとって基本中の基本の職務です。それ相応に出来て当たり前、もしも、信用に足るだけの航海当直の技量を発揮できなければ、船長以下乗組員全員から航海士失格の烙印を押されてしまいます。その航海士の「Basic Skill」ともいえる航海当直について焦点を当て、いくつかの初歩的な話を紹介します。

横揺れ

大昔のことですが、コンテナ船が大時化の中で夜間の航海当直中の2/Oが夜食にラーメンを船橋で食べていたところ、ものすごい横揺れで持っているラーメンごと振り飛ばされて、壁で頭を打ちつけて大怪我をするという今となっては笑い話のような事故がありました。このときの2/Oが草履であったかどうか知りませんが、横揺れの中を踏ん張って当直すべきときにラーメンを持ったまま振り飛ばされたのでは、言い訳のしようがありません。

機関室や食堂よりも船橋の揺れが大きいのは誰でもわかることです。航海士が横揺れで怪我をするようでは航海士失格です。写真の傾斜計(Clinometer)を見て下さい。皆さんはこの傾斜計の記録を見て、その壮絶な状況、船橋当直者の悲壮感をイメージできますか?私が乗船していた船での記録ですが、最大横傾斜角度が30度を超えました。長さ150mの小型船で巨大なうねりに船体が翻弄された証です。左舷から強風を受けていたため、右舷側の傾斜角度のほうが5度ほど大きくなっています。

トライエンジン

皆さんも3/Oとして出港時のトライエンジンを担当していると思います。釈迦に説法でしょうが、トライエンジンを実施するときには十分に気をつけるべき事項がいくつかあります。まず、プロペラ確認です。止まっていた大きなプロペラが回転するのですから、プロペラ周囲のクリアー確認が必要です。そして、もう一つ重要なことは、プロペラを過回転させることがないよう手短に済ませることです。過度の回転により船体移動を誘発させてしまうと係船索破断や桟橋損傷の大事故に至る可能性もあります。特に追従の遅いタービン船では主機回転数が上がりきる前に、素早くStop Engineにする必要があります。

しかし、これはあくまでも岸壁係留中の話です。錨地やDrifting中のトライエンジンでは十分余裕があるはずです。このときは十分に回転を上げてテストすることが重要かも知れません。要はそのときの状況によって求められること、注意すべきことが異なることを念頭に入れ、今どのようなトライエンジンが求められているかを把握しておく必要があるのです。ただ、単にトライエンジンの手順を覚えてその手順通りに実施するだけでは、まだまだです。

トライエンジンを長めに行うべき状況と手短に行うべき状況の違いを把握しておきましょう。場合によってはアスターンエンジンを先に実施したほうが良い時もあります。また、3/Oの中にはトライエンジン実施中のエンジンモーションを船首尾配置要員に連絡しない人がいます。当然のことながら、「Dead Slow Ahead!」「Stop Engine!」とタイミング良くエンジンモーションを船首尾配置要員に連絡しましょう。

ちなみに、ある機関士が言うには、タービン船のトライエンジンはあまり意味がないそうです。すでにターニング、スピニング中にエンジンの状態確認は済ませており、実際のトライエンジンのときには船橋操縦に主機が追従するかどうかを確認するのみだそうです。そうは言いながらも、やはり出港前のトライエンジンは重要な出港準備作業の一つです。

時刻合わせ

皆さんの船のパソコンやFaxで表示する日付や時間は正確ですか?進んだり、遅れたりしていませんか?テレグラフロガーの日付や時間の表示が正確に整合されているべきであることは言うまでもありませんが、Faxやパソコンの表示もおろそかにしてはいけません。

例えば何らかの事故が発生し、会社等関係先とFaxで送受信をする場合、出力される用紙の上部分に印字される時間が不正確では後々混乱を招く原因となります。パソコンの表示も同様です。e-mailの送受信時間を正確に記録しなければ、後で参照する通信時間が誤って記録されてしまいます。航海士は時間を取り扱うプロであり、常に正確な時間が求められています。

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