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人の手のひらは万年温度計、舌は塩分濃度計

仕事でもフル活用している『人の五感』の話です。

皆さんは温度計を使わずにパイプや機械のケーシングを手で触って、何度かわかりますか?日本酒が好きな人は、お酒を燗するとき、お銚子を指先でつまんだだけで、自分の好きな温度になっているかどうかわかるはずです。機関士の人は普段から手で触れて機器の温度をチェックする機会が多いので、体感でおおよその温度がわかります。

例えば、2、3秒しか触り続けることができないときは50℃以上、1秒も触り続けることができないときは60℃以上という目安があります。手のひらに食べ物をのせて食べるときに「手のひらは万年皿」と言いますが、同じように機関士にとって「手のひらは万年温度計」です。

私達人間は五つの感覚、いわゆる五感を使って生活しています。普段あまり意識していないかも知れませんが、航海士も職務でこれらの五感を駆使しています。先ほどの体感温度の話は「触覚」でした。その他にも感覚として「視覚」、「聴覚」、「嗅覚」、「味覚」があります。航海当直の見張りはまさに「視覚」を駆使しています。他船の汽笛、機器の異常音、警報を知るのは「聴覚」です。

機械に付属している温度計や圧力計だけがセンサーではありません。人の「視覚」、「聴覚」、「触覚」、「嗅覚」、「味覚」も貴重なセンサーです。これらの人間に備わっているセンサーをフル活用して甲板部担当機器に異常音が無いかを「聴覚」で、発熱していないかを「触覚」で、異臭がしていないかを「嗅覚」で常にチェックしています。

機関部では聴音棒(Listening Rod)を日常的によく使用しますが、この聴音棒を使ってモーター音やパイプ内の液体の流れを確認するのはまさに「聴覚」を使ってのチェックです。甲板部も聴音棒を使用することがあります。

聴音棒(Listening Rod)

LNG船ではパイプが低温になるために直接パイプに耳を付けることができないので、聴音棒を使って液の流れる音を確認します。甲板上の機器からの焦げ臭い異臭や油の漏洩を知るのは「臭覚」です。では「味覚」はどうでしょうか?さすがに「味覚」使わないと思っていませんか?実は私達航海士もときには「味覚」を使うときがあります。

若い航海士から時々「大変です。○○で水が漏れています。」との報告があります。「漏れているのは海水?それとも清水?」と尋ねると「わかりません。」という答えが返ってきます。「わかりません。」では失格です。そんなときは、舐めてみて海水か清水かを見極める必要があるとアドバイスします。海水漏洩と清水漏洩では原因特定、対処方法、緊急性の有無等が大きく異なります。もちろん、舐める液体が有害物質でないことが大前提ですが・・・。

実際にあった話ですが、ある人が廊下が濡れているのを見つけて、舐めて海水・清水のどちらであるかを確認しました。ところが、何とそれは尿だったのです。また、別の話ですが、機関室のドレンタンクにポタポタと水が落ちてくるので、1/Eが舐めて海水か清水かを確認しました。後でわかったことですが、その落ちてくる水はSewage Tank(汚水処理タンク)からオーバーフローした水でした。しかし、航海士たるもの、これぐらいのことで怖気づいてはいけません。舐めるのも仕事です。有毒の可能性がない限り舐めて海水か清水かを確かめて下さい。

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