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パスポートは水戸光圀の印籠みたいなもの

海外において私達船員の身分を証明する『パスポート』の話です。

メーカーのサービスエンジニア2名が機器トラブルの修理の為に内地から外地までの片航海に便乗したときのことです。出港後にサービスエンジニアのパスポートをチェックすると、なんと出国証明のスタンプが押されていません。内地を出港する前に税関に寄らずに直接乗船したため、出国手続きをしておらず、パスポートに出国証明のスタンプが押されていなかったのです。

私達船員は船員手帳で雇入をするので、出国証明のスタンプは必要ありません。しかし便乗者は船員手帳を所持していないので、必ず税関に立ち寄ってパスポートに出国スタンプを押してもらう必要があります。それをサービスエンジニアがうっかり忘れて乗船したのです。これでは外地で下船するときにトラブルになる可能性があります。どこの国からいつ出国したか証明するものがないからです。止む無くサービスエンジニアは外地で下船することを諦めて内地まで継続乗船して内地で下船せざるを得なくなりました。

私達船員は個人が所持する「船員手帳」と船が管理する「海員名簿」を使用して雇入・雇止を行います。しかし、業者等の人が税関に寄らずに乗船した場合、パスポートには出国の印も押されていない状態で、かつ、船員手帳も所持していません。下手すると密入国の嫌疑をかけられかねません。

このようなトラブルがあるので船に乗り慣れていない便乗者が内地で乗船する場合は要注意です。外地から便乗する場合は、寄港地まで必ず飛行機で移動しますから、間違いなくパスポートへ出国スタンプが押され、同種のトラブルは発生しません。この事例を見てもわかるように、一般人でも税関や入管を通らずに無許可・無断で簡単に外国航路の船に乗船して海外へ渡航できてしまうのです。

ちなみに、パスポートは海外渡航の際の通行手形のようなものです。パスポートの最初のページには、こう記されています。「日本国民である本パスポートの所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する」つまり、平たく言えば、「この日本人があなたの国に行った場合、手厚く面倒見てやって下さい」ということです。

水戸光圀の印籠のように日本国のパスポートには絶大な力があり、私達はその恩恵をあずかっているのです。(聞いたことのないような国のパスポートではどこまで権威があるかわかりません)しかし、私達の船員手帳にはこのような内容の記載は一切ありません。また、外国人船員が所持するオレンジブックには、さらに「この船員手帳は出入国における本人の身分を証明するものではない」とさえ書かれています。

船が内地に到着し、便乗していた外国人サービスエンジニアが内地の港で下船し、成田から飛行機で帰国する場合、下船する港の入国管理局でパスポートに入国のスタンプを押印してもらい、そこからは自由行動です。国内を旅行しようが何をしようが自由です。最後に成田空港で出国のスタンプをパスポートに押印してもらい飛行機に乗り出国します。旅行客と同じ扱いで入出国ができるのです。

では船員の場合はどうでしょうか?船員の場合は、認可を受けた専門のManning Agentが下船する港の入国管理局へ船員を連れて行き、手続きを行い成田まで責任を持って送り届けなければいけません。Manning Agentは身元保証人の立場になり、責任を持って外国人船員の出国まで面倒を見るのです。従って外国人船員はのん気に観光をしたくても寄り道ができません。このような船員の入出国手続きについては、知っていそうで意外と知らない人が多いはずです。

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