漂流する超大型タンカーの救出記録 12月13日(金)16:50〜NHKニュースシブ5時で放送

係船機のブレーキは強過ぎず、弱過ぎず、ほど良い力で

摩擦力を利用している『係船機のブレーキ』の話です。

各船で係船機のブレーキテストを毎年実施しているので、皆さんも何度か参加した経験があると思います。船によっては機関部主体でテストを実施する船もありますが、基本的には甲板部がテストすべきだと思います。保守管理は機関部担当だからと「全てお任せ」とせずに、甲板部の皆さんも積極的にテストに参加して下さい。普段あまり深く考えない係船機のブレーキ機構のメカニズムを完璧に理解して、実際のブレーキ力を体感できる絶好の機会です。

それでは「ブレーキテストを実施する目的は?」という質問に正しく答えることができますか?意外とブレーキテストの意味を取り違えている人がたくさんいます。油圧ジャッキの圧力をどんどん上げて行き、所定のブレーキ力でドラムが滑らなかったので合格とし、そこでテストを終わらせていませんか? これではブレーキテストの目的を半分しか達成していません。

ブレーキテストで確認するポイントは、所定のブレーキ力までドラムが滑らないことはもちろんのこと、所定のブレーキ力を超えたところでドラムが滑ることを確認しなければいけないのです。「所定の力までは滑らない&所定の力以上では滑る」がウィンチブレーキの役割です。もし、ブレーキ力が強すぎて、全然滑らない場合、係船索が切断されてしまいます。では所定の力である「保持すべきブレーキ力(=滑るべきブレーキ力)」とはどのくらいの力でしょうか?

SIRE(OCIMF)で要求する適正なブレーキ力は係留索のMBL(Minimum Breaking Load:最小破断荷重)の60%の力です。このブレーキ力でウィンチのブレーキを締め付けなければいけません。しかし、人間の手でブレーキを締め付けても、どのくらいのブレーキ力で締め付けたかは正確にはわかりません。そのため、トルク管理をする必要があるのです。トルクレンチを使用して予めわかっているトルク値でブレーキを締め付ければ、誰でも同じようにMBLの60%のブレーキ力で締め付けることができます。

トルクレンチを使わずに手だけでブレーキハンドルを締め付けても、どこまで締め付けて良いか判断できません。勘に頼ってブレーキを適当な力で締め付けるだけでは、適切に係船索を管理していることになりません。トルクレンチを使ってブレーキハンドルの頭に付いているボルトを所定のトルク値まで締め付けます。各ウィンチの60%MBL相当のトルク値を一度、求めておけば、次のブレーキテストのときにそのトルク値で締め付ければ60%MBLでブレーキが滑るはずです。厳密にはウィンチを使えば使うだけブレーキライニングが磨耗して、前回より若干強いトルク値で締め付けないと所定のブレーキ力は得られません。

とにかく、60%MBLでブレーキが滑るトルク値をウィンチの現場に表示しておき、Made Fast後にトルクレンチでその値まで締め付けます。今のLNG船ではブレーキドラムはステンレス製のため、常に表面が滑らかな状態を保つので、ブレーキ力の低下はほとんどありません。しかし、昔のタンカーではブレーキドラムが鉄製のため、錆でブレーキドラムの表面がガサガサになり、ブレーキ力が著しく低下している船がありました。

あるタンカーではバース停泊中に何本もの係留索が同時に滑って緩んでしまい、あわや大事故につながる危険性までありました。そのため出港後に甲機協力作業で全ウィンチのブレーキバンドを開放し、整備したことがあります。当時はブレーキドラムの状態が良くないためにブレーキ力が弱くなっている船では手でブレーキハンドルを目一杯締め付けるのが常識でした。しかし、今ではブレーキは弱すぎず、強すぎず、60%MBLで滑るブレーキ力になるように締め付けるのが常識です。

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