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船員たるもの、危機管理意識を高めて上陸すべきです

『船員が上陸したときのトラブル』の話です。

ある船で補油のためにシンガポールに寄港したときのことです。奇跡的なほど偶然なのですが、シンガポール入港日がなんと、大晦日12月31日になったのです。しかも通船を手配したので、乗組員で上陸できる人はシンガポールの街で年を越してハッピーニューイヤーを迎えることができるのです。その船は予定通り31日の夕方に錨地に到着し、補油作業を開始しました。食料の補給も終わって日が暮れた頃に、12名の乗組員が通船で上陸しました。帰りの通船は朝7時の1便だけです。上陸したメンバーはシンガポール街での一晩を思う存分楽しめることになりました。年を越して新年になる夜中00時からシンガポールの街では、たくさんの花火が打ちあげられました。

シンガポールに上陸して新年のカウントダウンができるというチャンスは、人生でそうそうありません。本船から通船小屋まで所要時間約45分です。そして、通船小屋から街までは手配していたマイクロバスで20分です。上陸した乗組員は年の瀬で賑わっている街へ我先にと勇んで繰り出しました。

ある人はおいしいシーフードでお腹を満たし、ある人はシンガポールのネオン街に消えていき、ある人はマリーナ地区のカジノで大勝負です。そして、その事件は上陸した皆が遊び疲れた朝になって起こりました。何組かのグループに分かれて行動していたのですが、通船へ帰る時刻近くになってカジノで遊んでいたグループの1人が仲間からはぐれてしまったのです。

他の乗組員がカジノ周辺をいくら探しても迷子になった彼は見つかりません。しかたなく、残りの乗組員は手配していたバスで通船小屋に帰りました。そこで、他のグループと合流しましたが、通船が出発する時刻になっても迷子の彼は通船小屋に帰ってきません。時間になっても帰ってこないので、上陸していた皆は何かトラブルに遭遇したのかと不安一杯です。

そこで、代表者2名がはぐれた場所であるカジノに戻って彼を探すことにしました。待っている乗組員は彼が事件に巻き込まれたのではないかと悪いことばかり想像してしまいます。皆が彼の無事を祈ります。その祈りがかなったのでしょうか、彼を捜しに行った乗組員がカジノの前で偶然にも途方にくれて歩道で佇む彼を見つけたのです。

後日はぐれた彼に事情を聞くと「ベンチで寝ている間にはぐれてしまいました。通船はもう出てしまったので船に戻れない。自分で日本へ帰るしかない。自分は帰船遅れで会社をクビになるだろうと覚悟しました。」と言います。今となっては笑い話ですが、当人にとっては知らない外地に一人取り残され、会社をクビになり、船員という職業を失うだろうという絶望感のどん底です。

ここで私が指摘しておきたいことは、彼が外地上陸に際して二つの大きなミスを犯したことです。一つ目は、連絡手段を確保していなかったことです。外地上陸するときには、迷子になったり、はぐれたり、事故にあったり、盗難にあったりする危険性が高いのは当然です。そのため、必ず代理店や本船との連絡手段を確保しておく必要があります。それなのに、彼は代理店、船の連絡先を知りませんでした。船と連絡が取れない状態のまま上陸していたのです。もし、はぐれたときに代理店や船に電話を一本入れれば、こんな大騒動にはなりませんでした。

そして、もう一つのミスは、仲間とはぐれた場合に、一人で原点に戻ることをしなかったことです。今回のようにカジノではぐれてしまい、時間がなくなった場合、一人ででも通船小屋に戻るべきでした。道も場所も分からず一人で原点に戻れないならば、上陸すべきではありません。現に他の乗組員は通船の出発時間までに通船小屋に戻っています。

また、いざと言うときのためにUSドルをポケットに忍ばせておくことも必要です。USドルがあれば、世界中殆どの国で通用します。いざとなれば、自分で交渉して通船を仕立てて船まで帰ることも可能です。外地上陸時は危機管理意識を高めて、連絡手段を確保し、非常事態を想定してPlan Bを用意しておく必要があるのです。

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