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あら不思議、赤い線が浮かび上がってきたら亀裂あり

金属を壊さずに内部の傷や劣化の有無を調べる『非破壊検査』の話です。

パイプや船体構造物に過度の応力が働き、クラック(Crack:割れ目)が入ることがあります。大きく深いクラックは一目で判りますが、目に見えないような微小なクラック、いわゆるヘアークラック(Hair Crack)の場合は肉眼では識別できないことも多々あります。

目に見えないクラックがあるかどうかを検査する場合、船で簡単に実施出来る検査方法として「カラーチェック」があります。皆さんはカラーチェックを経験したことがありますか? カラーチェックのことを別名でPT検査(Penetrant Testing:浸透探傷試験)と呼ぶこともあります。名前の通り、特殊な染料の色の変化によってクラックを見つける非破壊検査です。非破壊検査には、その他に超音波を使った検査方法等もあります。

カラーチェック(PT検査)には写真のような3種類のスプレー缶を使用します。青色缶は透明無色の洗浄液(Cleaning Liquid)です。この洗浄液をクラックの有無を検査する表面に噴きかけ、サビや汚れを綺麗にウェスで拭き取ります。次に赤色缶に入っている赤色の浸透液(Penetration Liquid)を全体に噴きかけます。そして、再び青色缶の洗浄液で表面全体に付いた赤色の浸透液を綺麗に噴き流します。(浸透液は溶剤除去性の他に水洗性、後乳化性のものがあり、洗浄処理法は各浸透液の種類が異なります。)

そして、最後に白色缶に入っている白色の現像液(Developing Liquid)を表面全体に噴きかけます。もし、目に見えないような細かなクラックがあれば、しばらくするとクラックに沿って赤色が滲み出てきます。まるで手品のようです。百聞は一見に如かず。(Seeing is believing !)経験がない人は、船にテストキットを積んでいるのを見つけたら、是非一度自分で試してみて下さい。

宇宙の「ブラックホール」は有名なので皆さんも知っているでしょう。高密度のために光さえ放出できずに黒く見える天体のことです。では「ストップホール(Stop Hole)」という穴を知っていますか?パイプや壁に生じたクラックを放置しておけば、どんどん進行してクラックが大きくなって行きます。そこで、クラックの進行を食い止めるためにクラックの端にわざと小さな穴を開けます。するとこの穴の手前で応力が分散されて、クラックの広がりを止めることができるのです。この穴のことを「ストップホール」と呼んでいます。わざと穴を開けますが、そのおかげでクラックの進行は止められるのです。まるで「皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る。」という発想です。

振動や残存応力によりハンドレール、スタンション、各種タンク、マスト、ポストそして場合によってはバルクヘッドにもクラックが発生することがあります。クラックはそのまま放置していると、どんどん進行して大きくなっていくケースが多いようです。対策を講じるにしても溶接等の恒久的な修理が可能であれば問題ありませんが、危険物積載船では簡単に溶接できない場所がたくさんあります。そんな場所で簡単かつ効果絶大な処置がストップホールで、クラックの進行を止めることができるのです。もちろんストップホールはあくまでも恒久的修理ができるまでの応急措置でしかないので、できる限り早急に溶接等による恒久的な修理が必要です。

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