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船位がまともに入らない航海士が乗船していても安心です

世界有数の航海の難所である『シンガポール海峡』の話です。

長い船乗り人生の中で、マラッカ・シンガポール海峡を通る機会が幾度となく訪れました。私のシンガポール通過回数は東航、西航合わせると延べ100回を超えるかも知れません。「よくもまぁこれだけ何度も通過したなぁ」と、感慨深いものがあります。世界屈指の船舶輻輳海域であり、かつ海賊行為多発海域であるため、船長、航海士にとっては緊張する場面にしばしば出くわします。最近はGPSを必ず装備し、また、ECDISを搭載した船が多いので船位確認は昔と比べて随分楽になりました。(執筆当時)

30年前、4/Oとして初めてシンガポール海峡を通過するときは、GPSもECDISもなくクロスベアリングで位置を入れるためにどの物標で方位を測れば良いのか迷ってしまい、船位決定にかなりもたついていました。同じ船に乗っているC/Oが次から次へと適切な物標を見つけて、位置を入れているのを尊敬の眼差しで見ていたのを思い出します。一人前の航海士と自負するならば機敏な動作で次々と通過する顕著な物標を見つけながら、船位を確認しなければいけません。

今はECDISがあるので、現在位置の把握が非常に簡単で船長の精神的負担も飛躍的に軽減されています。航海士は船位確認よりも他船との見合い関係の確認に集中することができます。船位がまともに入らないような航海士が乗船していても船長の負担はかなり軽減されました。もちろんECDISだけを信用して航行することは危険であり、あくまでも航行援助装置であることを忘れてはいけません。「ECDISは、BRMが上手く機能せずに船位の誤りに気付かなくても、操船判断を誤らないためのSafety Net」と言えます。

100回もシンガポール海峡を航行していると、今では顕著な物標をその姿まで思い描きながら名前をそらんじることさえできるようになりました。例えば東航の場合、Brother Id、Racon D、Takon Kecil、Helen Mar、Buffalo Rock、Batu Berhanti、Eastern Buoy、Horsburghとすらすら、その姿を思い描くことができます。皆さんも近い将来、シンガポール海峡の顕著な物標を順番に思い描くことができるベテラン航海士になることでしょう。

『航路の種類』の話ですが、同じ航路と言っても「IMO指定航路」と「船長協会推薦航路」ではその意味合いがまったく異なることを皆さんは意識していますか?例えば、東京湾へ入湾するときには洲崎沖に設定された分離航路を航行しますが、これはあくまで船長協会の推薦であって法的強制力はありません。多くの船が推薦航路を航行することによって船舶の流れを整流して衝突事故を無くしましょうというもので、推薦航路を航行する義務はありません。

必要な場合は航路を航行しなくても一切問題はありません。なまじっか推薦航路を通ったばっかりに、多数の船と見合い関係になり、避航するのに苦労することもあります。状況によっては推薦航路を航行しない方が安全に航行することができるということを忘れないで下さい。一方、IMOで規定された航路にも強制航路と強制でない航路があります。どの海域でも原則としては指定航路を航行するのが無難ですが、強制でない航路においては、場合によっては航路を逸脱することもあり得ることを頭に入れておいて下さい。

参考 改定分離通航方式一般社団法人 日本船長協会

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