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こざかしい悪事はすべて、お天道様がお見通し

ログブックに記入する『操練記事』の話です。

ある船でLog Bookに記入している救命艇操練の実施記録を見ると、20ノットで航行中のページに記載していました。多くの旗国では少なくとも3か月に1回の救命艇の進水・操船に関する操練を実施するように要求されていますが、現実問題として、20ノットで航走しているときに救命艇を着水できるはずもありません。このような辻褄が合わない「ウソ」をつくことはやめましょう。

予定している救命艇着水テスト等の操練が運航スケジュールの都合でどうしても実施出来なかった場合は、Log Bookに「荒天のため、操練を延期した」「運航スケジュール上どうしても時間が取れなくて、訓練を延期した」と記載しておけば、問題ありません。後日、Drifting、錨泊、停泊中に実施した記録をLog Bookへ記入すれば良いのです。安全を度外視して頑なに規則を守るよりも、少し規則の横道に反れた方がリーズナブルであることも少なからずあります。

また、別の船で、操練記事の記載内容を見ると、6種類のDrillを13:00から14:00のたった1時間で実施したことになっていました。1時間で6種類もの盛りだくさんの操練を実施できるはずがありません。あえて誤解を承知で言うと、「完璧なウソ、ばれないウソはやがて真実となる」です。世間で何かと偽装問題が話題となっている昨今、誰も「うそ」を使いたくはありません。しかし、「ウソも方便」、「必要悪なウソ」も存在する現実を十分に認識してください。

昔、先輩に教わったことですが、「ログブックへ記録する風や波の値は大き目の値を書け。」なにも明らかなウソを記入する必要はありませんが、風力5と風力6の丁度中間の風速を観測して、どちらにも見えるときには、風力6を記録します。理由は船体やカーゴにダメージが合った場合に備えて、少しでも自己が有利になるよう気象・海象を大き目に記録した方が良いという航海士の習慣です。

乗船したLNG船で非常に勢力の強い巨大な台風が接近して、風力11を船上で記録しました。とんでもない強風です。これぐらいになると風力を大き目とわざわざ風力12にする必要はないかも知れません。風力11の上の風力12は台風(Hurricane)しかありません。

もう一つ「ウソ」のお話。最近は企業コンプライアンスが頻繁に叫ばれ、企業の経営者や従業員は規則や規律を厳格に遵守し、顧客の信用を得ることを最優先しています。昔の話ですが、LNG船のカーボポンプのメーカーがついたとんでもないウソです。LNG船の場合、ドックでカーゴポンプの開放整備を行います。その際、カーゴポンプの運転時間によって、毎回のようにポンプ軸のベアリングを交換する必要があります。あるポンプメーカーがカーゴポンプの整備作業でベアリングを交換したと偽りました。実際はベアリングを交換せず、しかもその代金を船側に架空請求するという不正が発覚したという事件です。

ベアリング代金は数百万円と高価であり、しかも一隻だけではなく、複数の船で同様な偽装を行ったそうです。このメーカーはカーゴポンプの使用時間が少ないので、「経年劣化もしていないベアリングを交換するのはもったいない。」と思ったのでしょうか、あるいは「ばれるはずが無い。」と高をくくっていたのでしょうか。 しかし、「こざかしい悪事はすべてお天道様がお見通し!」です。このメーカーは完全に信用を無くしてしまい、あっという間に倒産してしまいました。

「自分だけが良ければ、他人はどうなってもよい」「ばれなければ何をしてもいい」「他の人もやっているから自分もしなければ損だ」という理屈は通用しません。正直者が馬鹿を見る世の中であってはいけません。私達はこれらの悪例を教訓として常に誠意ある仕事をしていきたいものです。

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