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甲板手をABと言いますが、その意味は?

英語で「Rating」と呼ばれる『部員』の話です。

船上クレーンは甲板手が操作することは認められていますが、新米の甲板員(Ordinary Seaman)が操作することは認められていません。そのことは船員労働安全衛生規則第28条に明確に規定されています。クレーン作業は経験又は技能を有する危険作業の範疇であり、原則その業務に6ヶ月以上従事した経験がなければ、当該作業を行うことは許されません。従って乗船経験が6ヶ月未満の新人OSはクレーン作業することはできないのです。労安則で規定されている危険作業としては、その他にWindlass操作や舷外作業等があります。また、ISGOTT(オイルタンカー及びターミナルに関する安全指針)にもLifting Equipmentの操作は訓練を受けた者に限ると規定されています。

甲板手の話をもう一つ。操舵手を英語でQuartermaster(Q/M)と呼ぶ以外に最近では、当たり前のように甲板手のことをAB(エービー)と呼びます。このABのAble Seamanを日本語に直訳すると「能力ある船員」ですが、なぜ「能力ある船員」が甲板手を意味するのでしょうか?

一説によるとAble Bodied Seamanが略されてAble Seamanとなったそうです。Able Bodied SeamanのAble Bodiedとは「健康で丈夫な体を持つ」という意味で、大昔は欧米の水兵募集基準の要件となっていたそうです。ですからAble Bodied Seamanとは文字通り「健康で丈夫な体を持つ船員」のことです。昔の帆船時代では確かに帆船を操船するためには力持ちのAble Bodiedな船員が必要であり、帆船には力持ちのABが多く乗り込んでいたことでしょう。

一方、操機手という職位は、帆船時代には油を使用する機関がなかったので存在していませんでしたが、機関が船に使用されるようになって初めて、操機手が乗り込むようになりOilerと呼ばれるようになったようです。ではOiler(操機手)のリーダーであるNo.1 Oiler(操機長)に求められる技量は何でしょうか?No.1 Oilerに求められる資質・素養は何と言っても機関部部員を取りまとめるリーダーシップです。しかし、求められるものはリーダーシップだけではありません。旋盤技術と溶接技術も非常に重要な必須要件です。ですから、いくらリーダーシップがあっても旋盤や溶接が上手でなければ、上司からNo.1 Oilerへ推薦してもらえず、昇進できないのです。

欧州船ではFitterという職位の船員が乗船していることもあり、溶接やパイプ修理専門の仕事を行っていますが、私達日本人が乗船している船にはFitterは乗っていません。従ってFitterの役割をNo.1 Oilerが担うことになるのです。ちなみにNo.1 Oilerと呼ばず、Chief Oilerと呼んでいる船もあるようです。

船のNo.1 Oilerの溶接技術が上手であると言っても、溶接を極めたと言える船員はそれほど多くないでしょう。造船所では巧みな技を持つ熟練溶接工が働いています。造船所内でも一目置かれるような職人はパイプの裏側等の溶接部分を直接見なくても手をまわして裏側の溶接ができるそうです。こうなれば本当にゴッドハンド、神業、巧みの技です。毎日毎日明けても暮れても溶接をするのですから、その技は皆から尊敬されるほど巧みとなるのでしょう。船齢が古く溶接修理が多い船では神業を持つNo.1 Oilerが欲しいはずです。

溶接を知らない人はいないと思いますが、「リベット」を知らない若い航海士がいました。もちろんリベット全盛時代は私達の船員時代よりさらに昔のことです。溶接技術がないころの船はこのリベットによって鉄板と鉄板を接続して建造していました。リベット(Rivet)は日本語では「鋲」です。あのタイタニック号が沈没した理由の一つとして、リベットが使用されていたために外板が簡単に剥がれてしまい、沈没に至ったと言われています。タイタニック号が溶接で外板をつないでいたなら、沈没しなかったのかも知れません。

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