操船と運用の実際:PCC

安達 直安達 直

操船者は理論に沿って安全に操船するのが常套であり、船舶挙動と外力等の情報を得ながら操縦性能を駆使して適切に制御できねばならない。未だ、操船の自動化には限界があり、高度な操縦は練達者の技に頼っており、刻々と入る情報を自らの目安に依って処理し理論に適った操船を具現している。私も船種毎に理論と実践から得た目安を以って操船していたので、今回は操船性能が特徴的なPCCでの例を挙げてみる。

はじめに

航走のみならず停泊にもデリカシーが求められる点では、巨大船に匹敵するのが自動車専用船(PCC/PCTC)である。殆どのPCCは、海上交通安全法で巨大船とする200mの基準に届かない全長199mとして、巨大船の航行規制を非適用としている。しかし、積荷の自動車を自走させて船内に積込む為、船内は約13層の立体駐車場のような構造になっている。その外壁は水面から30m高で200m長の垂直壁状となり甚大な風圧を受けるので、航泊問わずPCC運用の鍵となる。因みに、最大となる正横方向からであれば、概略、10m/s:50MT、15m/s:100MT、20m/s:200MT、25m/s:300MT、の風圧力が掛かる。

自動車専用運搬船:PCC (写真はイメージ)

風に対して

ニューヨーク沖のアンブローズ灯標付近で水先人を乗せる為、その指示に従って針路270度、6-8ktsに減速し、風は左後方で右風下舷の態勢で予定地点に向かった。途上、風力が6-7に増し、左への切上がり(ウェザーヘルム)が強くなり所定針路の維持が困難になった。増速して正船尾付近に風を受けながら乗船させたが、船橋に昇って来るや挨拶もそこそこに「リーサイドが足りなかった」と言われ「この風では、その針路は維持できない」と状況を説明した。風力7程度の追風で航行中、一旦ブローチング状態となってウェザーヘルムで強烈に切り上がり始めると、最早風下に戻すのは困難となる。それを諦めて切り上がるままに一回転して原針路に戻す方が易しい。小型ヨットが強風の追手帆走中に風を受ける舷を替える操帆(ジャイブ)をする際には「沈」:転覆の危険性が高い。そこで、安全第一を好むなら、時間は掛かるが切り上がって風位を超える(タック)で代用する手法がある。PCCはこれに似ており、帆船並みの風感覚を要すると痛感した。因みに、入出港時には、船首旗 (ジャック)に社旗を揚げて風見(テルテール)として重宝した。このアイデアを「ナイス」と言ってくれたサンディエゴの水先人はセーリングを楽しむ御仁だった。係留や錨泊中にも、船長室の窓からジャックのはためきを観て強風に備えていた。

錨泊に関して

PCCに乗船中に、錨泊中の振れ回りを以下の通り観測した。当初、船首を風位に向けて錨鎖は垂れていたが、風力階級3を超えると振れ始めた。
左舷錨10節(1節は約25m)を甲板上で止め、空船で喫水:船首6.81m、船尾7.63mの状態であった。

PCCは船首尾に亘り略均一な受風面積を有するので、風力5を超える頃から顕著に、一旦片方向に動き始めたら振れ幅を拡大して勢いよく振り子運動を始める。船首部が船尾部よりも早く、大きく、風下に落とされるので右回頭しながら右横方向へ加速する。やがて弛んで海中に没していた錨鎖は軋み音を轟(とどろ)かせ海面を切り裂いて直線的に浮上し、左舷正横方向へ一杯に緊張する。船首が最も右に振った時、船首と錨鎖は略90度に開き、風向はその真中方向の左舷40-45度となる:図-1①~④。

図1: 1/4振幅経路

その後、船首の右振れは錨鎖の張力で制止され、船尾だけが更に右へ振れる:図-1⑤~⑦。図-2 ⑦~⑮へ続く。

図2: 片道(1/2)振幅経路に於ける船体姿勢

PCCを除く最近の船舶は、船橋等の構造物が船体後部に集中配置されており、受風側面積は船尾部が船首部より大きいので振れ回りは収まり易い。それは漁船が風位に立つために用いるスパンカー:船尾縦帆の作用と同じだ。

片道(1/2)振幅経路に於ける船体姿勢(図-2)

右側へ振れた船体が、左側へ振れ戻る模式図を「図-2」に示した。
右側への最大振幅に到達した時点で往路から復路に切換る:⑦の位置。
再び船首を先にして左側への振れを始め船首を左に向けて錨鎖を左側へ振る運動が始まり、次第に加速して中点辺りで最速となり、やがて錨鎖の張力で船首が制動され船尾のみを更に左へ振る:図-2⑦〜⑮。

左右最大振れ時点での角度差と周期(図-3)

図3: 左右最大振れ時点での角度差と周期

風速15~10m/sに於いて振幅の片周期は約10分と略一定だが、船首の方位差は風速15m/sで約70度、10m/sでは約40度に達した。
振子の往復周期Tと振子長Lは、\(T=\pi \sqrt {\left( L/g\right) }\)の関係がある。
錨泊を振子に例えれば、展張した錨鎖長が振子の長さと想定できる。
従って、風が強くなっても錨が効いている限り、錨鎖長が一定ならば周期は不変であり、振幅は角速度に比例して増大する。このように錨泊しているPCCの振れ回りは、風が強くなれば大きく且つ速くなる。底質が砂地の錨地で激しく振れ回った後、巻き揚げた錨鎖は白く輝くほどに磨かれていた。

「図-3」のPCCのダイナミックな振れ回りを眺めていると、恰も釣り糸に掛かった大魚が、斜めに引っ張って逃げようとする姿が思い浮かぶ。巨大魚は逃避の限界に達すると釣り糸の方へ頭を向けさせられるが、再び、勢いをつけて他方に走り出す。正に図-3の通り、錨鎖の弛み:カテナリーが無くなる程に緊張させ、その伸張方向が船体の真横に達する程に激しく振れ回る。これでは、走錨が始まるのは時間の問題であり、何とか事態を改善しようと、伝統的な片方の錨を着底させ引き摺らせる「振れ止め錨」を試行したところ効果てき面だった。また、船体が右に振れる間は舵を左一杯に取って船尾を右へ移動し易くし、左に振れる間はその逆に転舵する方法も試したが効果は不明だった。河川での錨泊中にも同様な振れ回りが起こるのは、一旦、船体が河川流と角度を成すと船首部が船尾部より早く押し開かれながら振れ始めるからである。この振れを減衰させるには先行する船首に船尾を追従し易くすべきと考え、舵の横圧抵抗を減らすように転舵して観たが、多少は有効に感じる程度であった。

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