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ドライドック作業は船底に始まり、船底に終わる

『ドック作業』の話が続きます。前回「ドック作業は掃除に始まり、掃除に終わる」と書きましたが、さらにもう一つ、「ドック作業は船底に始まり、船底に終わる」とも言えます。

乾ドック(Dry Dock)に船を引き入れてゲート(水門)を閉めるとすぐにDry Dockの排水開始です。そして数時間後にはDry upするので、船長、C/O、3/Oは直ぐに長靴を履いてDry Dock底に降りて行き、外板、船底、舵、プロペラに異常がないかどうか目視検査を行います。そして、ドック作業員がバラストタンクのBottom Plugを外す作業に立ち会います。間違ってFOが入っている油タンクのBottom Plugを外されては大変です。3/Oは事前に完成図書の「Docking Plan」で取り外すBottom Plugの数と位置を確認しておくべきです。

Dry Dockでの重要な作業の一つが外板及び船底の塗装です。船によってはドック費用の半分をこの塗装に費やすこともあるぐらいです。当然のことながら、Dry Dockのチャンスにしか外板水線下部分の塗装はできません。そして、塗装やその他の計画された作業が完了するとDry Dockから出るわけですが、ここでとても重要な作業がBottom Plugの復旧です。ドック作業員と一緒に確実に全部のPlugを戻します。

もしBottom Plugから漏洩があっては大変です。漏洩が無いことを確認するために必ずバキュームテストを実施します。バキュームテストの方法は、取り付けたBottom Plug全体に石鹸水を塗り、透明な大きな箱でBottom Plugを囲み、真空状態を作ります。これで少しでも泡立てば漏洩しているということになります。全Bottom Plugの漏洩がないことをバキュームテストで確認します。そして、最後にBottom Plugをセメントで固める船もあります。

船底汚損の除去掃除は何もドック時だけに行う作業ではありません。錨地でダイバーによって船底掃除を行うこともあります。水面下の船体にはA/Fペイント(Anti-fouling paint)を塗装しており、通常はペイントの防汚効果により船底に海藻や貝は殆ど付着しません。ところがA/Fペイントが不良で剥がれてしまったり、長期沖待ちがあった場合には船体水面下にびっしりと海藻や貝が付着することがあります。そうなると船体抵抗が著しく増加し、期待する船速が得られません。

同じ出力でも酷いときは2ノット以上の船速低下になってしまいます。これを改善するためには海藻や貝を除去する以外に方法はなく、時間があるときに錨地で船底掃除を行うこととなります。プロペラも同様に汚損が進行した場合、異常振動が発生したり、推進効率が低下したりするので、錨地で水中プロペラ掃除を実施することもあります。

聞いた話ですが、ある船で船底掃除を行った際に作業時間が足らなくなり、片舷のみの海藻や貝の除去掃除を終えて出港となりました。するとどうでしょう、出港後、航行中に常に当て舵を取らなくては船が真っすぐ進みません。要するに除去した舷は船体抵抗が小さくなり、除去していない舷は相変わらず抵抗が大きいままです。その抵抗差を当て舵で補う必要が生じたのです。結局、当て舵をとることによる抵抗増加分と船底掃除により抵抗減少分が相殺されて、船底掃除した意味がなかったという笑い話のような失敗談です。

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