ドック作業は掃除に始まり、掃除に終わる

航海士にとっては何かと苦労が多くて大変ですが、そのぶん腕の見せ所でもある『ドック作業』の話です。

VLCC等タンカーでドックに入った場合、「ドック作業は掃除に始まり掃除に終わる」とよく言われます。最初の掃除はガスフリー作業後にやって来ます。それはカーゴタンク底に溜まったスラッジ揚げです。数年間で船底に溜まったスラッジを除去するのはこのタイミングしかありません。そして、ドック作業が終盤になると今度は最後の掃除です。

ドックでは普段、出来ないカーゴタンク内やバラストタンク内の修理をここぞとばかりに行います。その際、沢山の資材を搬入して工事を行うので、タンク内は針金、鉄くず、空き缶、ビニール等々ゴミの山になります。工事が終了すれば清掃作業員によりきれいに掃除が行われるのですが、何せ広いタンクで構造物が複雑に入り組んでいるため、死角となるサイドロンジの上に番線や鉄くずが置いたままになることも多々あります。私はダブルハル(Double Hull)仕様のタンカーの経験がないのでよく知りませんが、ダブルハルはタンク内の構造もシンプルとなり、スラッジも昔と比べて非常に少なくなり、掃除もずいぶんと楽になったのかも知れません。

問題は、もしドック終了後の積荷役や揚荷役で、針金等の硬い鉄製のゴミが油やバラスト水と一緒に流れ出てパイプ内のバタフライバルブに噛んでしまうと、シートが損傷したり、最悪バルブが閉まらなくなったりしてしまいます。そうなるとガスフリー作業をしてバルブ修理という大掛かりな作業が必要になります。ですから、タンカーのドック出し後は甲板部総員でカーゴタンク内の点検を実施し、ドックでの忘れ物やゴミがないことを確認します。私もタンカーにC/Oとして乗船中に、ドック経験がありますが、ドック出し後の最初の航海は揚積荷役が終わるまでバルブに何か異物が噛み込まないだろうかとずっと不安だった覚えがあります。

ドック中の私自身の失敗の話を一つ。大昔のことです。私が2/Oとして乗船していたパナマックス型バルカーがドックに入りました。Dry Dockに入渠して、直ぐに手持ちのバラストを排出することとなました。C/Oからバラスト排出作業の担当者として私が任命されました。最終ステップとなりバラストポンプを使用せずにGravityでの排出で、6つのタンクからバラストを排出することになりました。Dry DockがDry Upするとサイホン現象で、バラストタンクの残水はエアーを噛むまでGravityでバラスト主管以下のレベルまでほとんどの量を排出できます。

しかし、残りのタンクが4タンクになったときに、APTにもわずかに残水があったので、私はそれも一緒に排出しようと何気なくAPTのTank Suction Valveを開けました。するとAPTからエアーがライン内に入ってしまいサイホン効果がなくなり、他バラストタンクからの排出が止まってしまいました。各バラストタンクのレベルはまだ3m近くあり、残水は4タンクとも300トンはあったと思います。一旦エアーを噛ませてしまったら、もうどうしようもありません。Dry Dockなので外から海水を入れてラインのエアーを抜くこともできません。

Levelの高いバラストタンクが残っていれば、エアーを抜いてバラスト排出を再開することができますが、そのときはどのタンクも3m以下のLevelでした。しかたなく、そのまま排出を諦めて、船底のBottom Plugからの排出だけとなりました。Bottom Plugからの排出では時間がかかるなあと心配しましたが、案の定とんでもなく時間がかかりました。結局Dry Dockから出るまでの1週間ずっとBottom Plugからバラスト水が出ていました。このときの失敗は非常に悔いが残り、今でも当時の状況をはっきりと覚えています。

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