港によってはパイロットがヘリコプターで乗下船します。その『ヘリコプター』の話をいくつか。
豪州ではヘリコプター(Helicopter)のことを「ヘロ」と呼んでいます。また、英語でもヘリコプターと呼ばずに略式の言葉でチョッパー(Chopper)と呼ぶことがあります。ある船でインド人航海士に「I can see a chopper. (チョッパーが見えた)」と言われて何の意味かわからなかったことがあります。恥ずかしながら、チョッパーがヘリコプターを意味する英語であることを知りませんでした。
ちなみに知っている人も多いかも知れませんが、ヘリコプターは一つのローターだけでは、トルク(機体を回転させる力)が発生してしまい安定飛行できません。そのため、逆回転方向の2基のローターを使用するか、船尾付近に小型のローターを設置してトルクを打ち消す必要があります。ヘリコプターの船尾に付いている小さなローターはトルク調整用なのです。
バラ積み船のように広いハッチのある船や専用ヘリデッキのある船では、「Landing Area」が用意されており、デッキ上にHマークで印されています。よくビルの屋上に見かけるHマークと同じです。最近はこのヘリコプターマークに船名も表示することを求められています。ヘリコプターが本船に着陸するときは、このHマーク目指して風下から本船に接近してきます。
では、ハッチやヘリデッキがなく、着陸スペースに余裕のない船の場合にはどうするのでしょうか?その場合は、「Winching Area」を用意します。デッキ上に「Winch Only」と表記しています。この場合、ヘリコプターは着陸せずにワイヤーを使って人や物の揚げ下ろしを行います。詳細については「Guide to Helicopter / Ship Operations」に記載されていますので、船にあれば一度目を通して下さい。
ここでは、ヘリコプターオペレーションにおける幾つかの特記事項を紹介しておきます。
- ヘリコプターマークに使用するペイントはNon-slip Paintであること。
- Landing Area内に高さ2.5cm以上の障害物がないこと。
- Winching AreaのManeuvering Zone内に高さ25cm以上の障害物がないこと。
- ヘリコプターへ近づくときはパイロットから見えるように2時または10時方向から近づくこと。
若い頃、タンカーに乗船中のことですが、ラスタヌラのジュアイマに寄港したときの話です。その港ではパイロットはヘリコプターで乗下船します。VLCCの広いデッキ上にヘリコプターが着陸し、パイロットが降りてくるやいなや激怒して私達乗組員に文句を言い始めました。理由はデッキ上に置き忘れていたたくさんのウェスがヘリコプターのプロペラの風圧で飛び散って空中に舞ってしまったからです。また、最近もLNG船でFunnel Deck上にあったウェスが風圧で舞い上がってパイロットから注意を受けました。みなさんもヘリコプターにウェスは禁物であることをよく覚えておいて下さい。
ある船ではヘリコプターが接近したときに甲板上に伸ばしてスタンバイしていた消火ホースが舞い上がったことがあります。ヘリコプター会社から危険だから消火ホースは伸ばさないよう強く注意されました。ヘリコプターの吸気口かプロペラにでも引っ掛かって飛行に支障が出れば一大事です。ですからパイロットは私達が思うよりもデッキ上の安全確保に神経を尖らせています。相手の立場になってみること、考えることが重要だなと感じさせられる出来事でした。ちなみにヘリコプターが風向きを確認するために掲揚する旗を日本語では「吹流し」と言いますが、英語で「Windsock」と言います。