『船の食料』の話です。
チャンバーに保存している食料の在庫量を気にしたことがありますか?毎月末にChief Stewardが食料の在庫量を調査し、書類(Inventory)を作成して船長に報告します。外航船の場合、金額で言うとおおよそ50万円から150 万円程度の範囲の在庫量が一般的です。航路の長さによっても在庫量が変化しますが、入港前だと当然在庫量も少なくなり、40、50万円程度、港で食料を補給した後は、多い船で150万円分程度の在庫量となります。金額で言ってもピンとこないかも知れませんが、1か月の食料金予算が約100万円だと考えれば、食料金額から在庫量が想像できるのではないでしょうか。
この在庫量に関するトラブルが、Chief Stewardの交代時にしばしば起こります。前任から引き継いだ後任のChief Stewardが必ずと言っていいほど、野菜が足らない、調味料が足らない、期限切れの食材が多すぎると不具合を申し出てくるのです。食料不足の原因は前任のChief Stewardが毎月の在庫量を帳面上で調整して、船長に報告しており、下船時に実際と帳面上の在庫量に大きな差が生じてしまうためです。
日頃、食材を使い過ぎて在庫が少なくなっていても、毎月の食料予算の中で収まったように見せかけて在庫量を多めに報告するのです。そのためChief Stewardが交代して後任者が在庫をチェックすると数字上よりも実際の食料がかなり少ないということが多々あります。このトラブルを防止するには、数か月に1回は、船長やC/Oが食料在庫数量を自分で確認することです。全品目でなくても主要な品目をチェックすれば、おおよその見当はつきます。
昔、しいたけや貝割れ大根を趣味で船内栽培する人がいましたが、私も貝割れ大根は栽培したことがあります。また、司厨部はもやしを当たり前のように栽培していました。以前、テレビで見ましたが、LEDランプを使用してコンテナで水栽培して野菜を育てる研究が進められています。近い将来実用化されれば、船にはコンテナを設置する場所はいくらでもあるので、野菜栽培用コンテナを積んで野菜を自家調達する時代がやって来るかも知れません。
通常、1か月以上の長期航海となると新鮮な野菜が必ず不足しますが、このコンテナによる野菜栽培が実用化されると長期航海でも新鮮な野菜に不自由しません。将来、船長がコンテナからイチゴやキュウリを収穫するのが日課になっているかも知れません。
趣味と言えば、休暇中のように家庭の雑用におわれることがない船内生活は、自由に使える個人の自由時間がたくさんあります。その余暇の時間を自分の好きな趣味に当てる人もいます。貝割れ大根の栽培以外にも例えば尺八やボトルシップが船内で流行ったことがあります。
また、「パイプたばこ」が流行ったこともあります。パイプたばこは香りが良くて、好きな人にはたまらない匂いです。パイプたばこは吸うのではなく、正確に表現するとパイプたばこは燻らす(くゆらす)ものです。あまりにも匂いが強いので街中では周囲の人に配慮して簡単には吸うことはできません。私も若い頃は趣味で吸っていたので家にパイプを10本ほど持っていますが、最近はほとんど吸ったことがありません。