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とっつきにくい退屈な理論を実践で体感する

操船支援に利用される『Bow Thruster』と『タグ』の話です。

船が5ノットで低速航行しているときに右へ30度変針する場合、舵を使用せずに「船首のBow Thrusterで変針する場合」と「船尾にラインを取っているタグボートに引かせて変針する場合」を考えて下さい。仮にBow Thrusterとタグボートの出力が同じとすると、どちらが簡単に船を右へ30度変針させることができるでしょうか?

以前、Bow Thrusterによる変針と船尾タグボートによる変針の両方のケースを実際に体験する機会がありました。そのとき、なぜ同程度の馬力なのにBow Thrusterと船尾タグボートでこんなに力の差があるのかと思うほど、その回頭へ寄与する効果の差は歴然としていました。船首のBow Thrusterより船尾タグの方が容易に船が回頭し、楽に変針できました。

なぜタグボートが非常に有効でBow Thrusterがそれほど有効でないのか考えてみました。皆さんはお分かりでしょうか?そうです。転心位置の差です。船速が5ノットあれば転心がかなり船首側へ移動するため、回頭モーメントのレバーが船首側では短く、船尾側で長くなり、同じ横方向の力が働いたとしても船尾側の方がはるかに大きな回頭モーメントを発生させることができるのです。ですから同じ馬力でも船尾に取ったタグボートの方が容易に船を回頭させることができるのです。このように普段はとっつき難い退屈な理論が緊迫する現場で実体験できたときには、結構うれしいものです。

Bow Thrusterは過大な船速で使用することはできませんが、5ノット以下では使用しても問題ありません。Bow Thrusterは着岸、離岸操船ではタグと同等に十分な力を発揮してくれますが、速力が5ノット程度あるとBow Thrusterを用いて変針しようとしてもなかなか言うことを聞いてくれません。

Bow Thrusterの効果が得られ難い一つの理由は、5ノット以上になるとBow Thrusterのトンネル内にスムーズに海水が流入しないため、期待するほど横方向への力が得られないのです。一方、船尾タグボートの場合、船尾左方向へ引かせると、これが予想以上に効果があり、船はどんどん右回頭を始めます。

皆さんはBow Thrusterの使用時間の限界について、知っていますか? Bow Thrusterは5ノット以下で使用するという制限以外にもFull Powerで連続使用できる時間が限られています。以前乗船した船のBow Thrusterは仕様上、Full Powerでの連続使用限界は60分となっており、船内申し合わせで30分以上のFull Powerでの連続使用は避けるようにしていました。

実際にはBow Thrusterを1時間以上も連続使用する操船はあまりないと思いますが、Bow Thrusterは無制限に使用できるものではないことを頭に入れておいて下さい。実際に定格1時間のところを4時間以上ニュートラル運転していたためにモーターから白煙が発生した例もあるくらいです。ニュートラル運転といえども不必要な長時間運転は避けた方が無難です。

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