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救命艇のもやい綱を船首側にだけ取る理由

普段は海中にあるので、ドック以外ではあまりお目にかかる機会の少ない『プロペラ』の話です。

昔は、救命艇のもやい綱(Painter)は船首尾両方に各1本ずつ取っていましたが、現在は船首側のみにLong Painter1本を取るのが常識です。船首側のPainterは艇内からReleaseできるように船首に取り付けて端をハンドレール等に仮結びしています。もう1本のPainterは船首付近に準備しておくことになっています。ですから1 本を船首に結び、1 本を艇内に格納しておけば、問題ないと思います。

実際にLife Boatを降下するときには、本船に前進行き足があるか、停止している状態であり、船尾にPainterを取っていると救命艇のプロペラに絡みつくトラブルの原因になるので、船尾には取らないことになりました。但し、操練で着水テスト実施時は、救命艇を海面まで降下させたときに艇を安定させるため、船首尾両方のPainterを取りましょう。

絡みつくと言えば、入港作業中にラインボートのスクリューに係船索が絡みつくトラブルがときどき発生します。ワイヤーは重くて沈みますが、テールロープや繊維索は海面付近を浮遊します。それをラインボートがプロペラに絡ませてしまうのです。明日は我が身ではありませんが、一度係留索がプロペラに絡みついたら、係留作業の遅延となり大変です。ラインボートだけでなく、大型船と言えども同じようにプロペラに係船索が絡まないよう細心の注意が必要です。プロペラ周囲の安全確認後に主機を使用しなければいけません。あるターミナルではラインボートのプロペラに係留索が絡みつく事故が多発するため、係留作業にラインボートを使用せずに、Heaving LineとMessenger Ropeで係留索を取る手順に変更しました。そのおかげで係留作業が通常の2倍以上の時間がかかるようになりました。

ところで、皆さんはドック中に渠底へ降りてロープガードリング(Rope Guard Ring)を見たことがありますか?プロペラの前方のシャフト周囲に巻かれた巨大なリングです(右写真)。このリングの役目は文字通りロープをガードするものです。魚網や釣り糸がシャフトに絡みつくのを防止するために設置しています。

もし魚網や釣り糸がシャフトに絡みつき内部へどんどん侵入すると、シャフトシールを損傷するおそれがあり、最悪シャフトの水密が維持できなくなればLOが漏れ出し、大問題となります。そこで、魚網等がシャフト内部に入らないようこのロープガードを設置しているのです。しかし、ロープガードで魚網の絡みつきを100%防止することはできません。わずかなロープガードの隙間から内部へ魚網が入り込んで、シャフトに絡まっていることもあります。

プロペラシャフトと言えば、ディーゼル船のプロペラシャフトは軸受けで支えられてほぼ水平に船尾のスターンチューブを突き抜けていますが、タービン船のプロペラシャフトは大きく船尾に傾いています。なぜタービン船のシャフトは大きく船尾に傾き、ディーゼル船のシャフトは平行なのでしょうか?

決定的な違いは減速歯車の有無です。タービン船のプロペラシャフトのアラインメントが大きく船尾に傾いている理由は巨大な減速歯車部が高い場所にあるからです。タービン船はタービンの何千回転という高速回転を減速歯車機構でプロペラ回転数まで減速しています。この減速歯車と同じ高さで平行にプロペラシャフトを設置するとプロペラが船体の高い位置になって、海面上に出てしまいます。そのためどうしてもプロペラシャフトを傾けてプロペラの位置を低くする必要があるのです。低速回転のディーゼル船では減速歯車がないため、シャフトを低く平行に配置できるのです。

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