皆さんは『ブルーリボン賞』と言えば何を思い浮かべますか?
日本映画で表彰される名誉な賞と答える人が多いかも知れません。しかし、私達は船員ですから、船に関係ある賞を思い浮かべて下さい。英語の「Blue Riband (Blue Ribbon)」は「最高の賞」という意味があります。「船のブルーリボン賞」と言えば、「大西洋横断航路で最高平均速力を出した船」に贈られる名誉ある賞のことです。150年前からある賞で歴史は古く、豪華客船華やかなりし頃には世間に注目された名誉ある賞です。当時は客船会社が自社の所有する客船を自慢・宣伝するために最高速力を競っていたのです。ブルーリボン賞を受賞した船だけが誇らしげにマストに青いリボンを掲げることが許されました。
タイタニック号沈没事故に関する書物を読むと、必ずこのブルーリボン賞という言葉が出てきます。タイタニック号もブルーリボン賞を狙って無理な航海計画を立て、氷山が多数存在する航路を選定してしまい、減速せずに航行して氷山に衝突沈没したと言われています。(しかし、実際にはタイタニックの主機出力は新記録を樹立できるほどの高出力ではなかったそうです。)
ちなみに記録として残っている西回り航路の最高平均速力は1952年に客船「ユナイテッド・ステーツ」が出した34.51ノットです。おそらく現代の船より抵抗の多い船形をしていた当時の大型客船がその速力を出す為に、どれだけの出力が必要だったのでしょうか?とんでもなく巨大なエンジンが装備されていたことでしょう。
タイタニック号の惨事では救命艇の数が十分でなかったことが多くの犠牲者を生んだという理由から、その後の安全設備関係の規則の強化につながりましたが、以前乗船したサハリン航路の船で、救命艇にかかわるちょっとしたおもしろい話がありました。その船は冬場のサハリンの積地沖に錨泊して待機する船ですが、海上が全面氷に覆われるような状況下でも可能な限り積地ターミナルから至近距離で本船は待機しなければいけません。
そこで、ふと誰かが言い出した疑問です。ある船がサハリンの海面が氷で覆われた錨地で待機していたときのことです。「もし、今、火災が発生して緊急事態となり、船外へ逃げるとき、救命艇が氷の上に乗っかって降ろせないけど、これって船員の命の安全が脅かされる不安全な状態ではないか?」という指摘です。
確かに船のまわり全面が10cm以上の分厚い氷で覆われていては、救命艇を降ろして使用することができません。氷の上に降りて徒歩で逃げるにしても陸上まで歩いて到達できる保証は何もありません。途中で氷が途切れていれば、そこまでです。正論から言うと、船の周囲が氷に覆われるような海象条件では、乗組員の安全は担保できないので、本船は氷海域に無理して錨泊してはいけないということになります。ということは、極論かも知れませんが、氷海航行は救命艇が使用できない人命にとって不安全な航行と言えます。
他方、灼熱下の救命艇の話です。危険物積載船以外の船では、救命艇にスプリンクラーを装備していないかも知れませんが、タンカーやLNG船では油の船外流出により海面で火災が発生し、文字通り火の海になる可能性があるので、救命艇が火炎の中を航走できるように救命艇の天井から海水を散水する装置を装備しています。火の海地獄から生還できるようになっているのです。そのため火炎の中を救命艇のドアを締め切ったままエンジンを使えるように、艇内に空気を供給するための圧縮空気ボトルも装備しています。
アメリカ海運のシンボルであったユナイテッド・ステーツが、航空機に旅客や軍隊の輸送を奪われ衰退していく過程が書かれていて、とても興味深いものでした🤔