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航海士が、とんでもなく楽になりました(その2)

陸上の機器は年々進歩するのに船の船橋に装備されている航海関連機器は殆ど進歩していないとよく言われます。しかし、よく考えるとGPS、ARPA (TT)、AIS、ECDIS、VDR、Sound Reception System、BNWAS等々、私が入社した頃には無かった新しい計器も導入されています。レーダーも昔のレーダーと比較して、性能や操作性は格段に進歩しています。

ARPAも私が入社した頃は、まだ存在していませんでした。レーダーを覗き込んで、相手船の航跡を黄色のダーマトグラフ(Dermatograph)でレーダー画面上にプロットし、ガーゼで消していた時代を懐かしく思います。ひょっとして、皆さんはレーダーを覗き込んでダーマトグラフを使って他船航跡をプロットしたことがないのでは? ダーマトグラフとはガラスや金属にも描ける特殊な色鉛筆です。

若い航海士達は当たり前のように便利な航海機器を使用していますが、古い時代を知る私達の年代からすると、今の航海士は便利な機器のおかげで船位計測については、随分と楽をしていると思います。しかし、一方で航海士の仕事の内容が様変わりし、ISMが導入された現在は、チェックリストや記録・報告書が船内にあふれており、事務処理作業に費やす時間が昔に比べて驚くほど増えています。若い航海士の皆さんは事務処理作業の多さに辟易して、毎日のエンドレスな事務作業にうんざりしていることでしょう。これも時代の変遷であり、航海士はその仕事の質や量の変化に対応せざるを得ません。

GPSが無い時代は、船位を得るために本当に苦労しました。天測だけが頼りですが、曇天が何日も続くと正確な船位がわからないまま、推測位置に基づいて航海を続けざるを得ません。そのため、昔は今の時代より浅瀬に乗り揚げる船が多かったはずです。なぜこんな場所で船が乗り揚げるのかというようなところに巨大な船が乗り揚げていました。私も3/Oの頃、天測位置を入れ間違って船長の信用をなくしたことがあります。

何日も続いた大洋航行の後、久しぶりに沿岸に接近したときに天測で正午位置を入れました。そのとき符号の+-を間違えて東西逆方向に正午位置を定めたのです。その数時間後にレーダーで陸岸を捉えて位置を確認すると10マイル以上も本船位置がずれていることがわかりました。このように単純な計算ミス一つで何マイルもの誤差が出るのが天測位置です。

ずいぶんと前のことなので、正確な場所は忘れましたが、トラック諸島付近の浅瀬に大型船が乗り揚げていました。それがレーダーで遠くから補足できて絶好の物標となっていました。その浅瀬には顕著な物標がないため、その船がなければレーダーで捕らえ難い浅瀬です。乗り揚げた難破船を双眼鏡で見ると錆だらけで、長年の潮風で腐食も進み、少しずつ崩れ落ちていました。相当の年月が経っているので、もう船体外板は朽ち果ててしまい、今はその姿は海面上から消え去っているかも知れません。

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