航海当直 ア・ラ・カルト(衝突の瞬間・錨S/B・Flag Line・パイロットのお迎え)

阪口泰弘阪口泰弘

言うまでもなく、『航海当直』は航海士にとって基本中の基本の職務です。それ相応に出来て当たり前、もしも、信用に足るだけの航海当直の技量を発揮できなければ、船長以下乗組員全員から航海士失格の烙印を押されてしまいます。その航海士の「Basic Skill」ともいえる航海当直について焦点を当て、いくつかの初歩的な話を紹介します。

衝突の瞬間

長い船員生活の中で大型船同士が衝突する瞬間を実際に目撃したことがあります。シンガポール沖の分離通航帯を本船が西航中のことでした。満船のVLCCと空船のタンカーが2マイルぐらいの距離で行き会い関係となっており、VHFで「右舷対右舷で」「いや、左舷対左舷で」とお互いの意思が食い違ったまま、接近し続けました。このようにお互いが主張ばかりして譲らず、言い合いになったときは危険な状況です。案の定、レーダーで見ていても衝突コースまっしぐらです。両船とも大型で低速なので操縦性も良くありません。満船のVLCCの方はほとんどコースが変わりません。

そして、双眼鏡で見ているとお互いの船が非常に近い距離で重なりあいました。両船がすれ違った後の空船バルカーを見ると、左舷ハウス前から海水のようなものが滝のように出ており、オレンジ色の船体が一部黒く見えました。そうですVLCCの船首が空船のバルカーの左舷側に接触したのです。幸い油流出はなく、船体の一部を損傷しただけで済んだようです。このように事故の生々しい様子を見たのはもちろん初めてで、とても衝撃的でした。

錨S/B

あるLNG船で入港S/B中の航海士から「両舷錨をS/Bしました」と報告がありました。私はてっきりコントローラーストッパーを収めたまま、ストッパーピンだけ抜いた状態にしていると思っていましたが、実際にはコントローラーストッパーを引き上げてS/B状態としていました。この航海士にとっての錨S/B状態はコントローラーストッパーを引き上げた状態だったのです。私の意図した錨S/B状態はコントローラーストッパーをおろしたままの状態です。

過去に発生した錨鎖走出事故の教訓としてコントローラーストッパーは収めたままにしておくべきものと誰もが理解していると思っていました。港によっては規則で規定されており、パイロットから入港S/B中及び停泊中はコントローラーストッパーを引き上げないよう指示されることもあります。しかし、LNG船以外の船に多く乗船している航海士にとっては錨S/Bはコントローラーストッパーを引き上げることが当たり前なのかも知れません。思い込みでオーダーせずに、入港S/B作業前に具体的な作業手順を入念に確認しておく必要があると反省しました。

Flag Line

フラッグラインが風に吹かれてバタバタ暴れると、シャックルがラインと擦れて切断してしまうことがあります。ですから、シャックルがラインに擦れない位置に調整する必要があります。また、風のないところで旗を揚げるのは簡単ですが、強風下での旗揚げ作業は容易ではなく要領が必要です。何気なく旗をフックに引っ掛けて揚げるとフラグラインに絡まったり、他の旗のフラグラインに絡まったりします。

一旦絡まってしまうと、もう揚げることも降ろすこともできなくなり、風が弱くなるのを待つしかありません。強風下で旗を揚げるときは風向に注意して絡まないようフラグライン2本を大きく離して揚げます。できれば2人でフラグラインを一本ずつ持って揚げましょう。そんなちょっとしたコツも実際に自分で旗を揚げて、苦労してみないことには判りません。

パイロットのお迎え

最近、気になるのが、航海士のパイロットを迎えるタイミングです。若い航海士が「キャプテン、パイロットを迎えに行きます。」と自ら積極的に進言するのは良いことなのですが、そのタイミングが非常に早すぎるのです。まだ、パイロットボートがはるか遠くにいて、合流するのが15分以上もかかるのにもうUpper Deckに降りようとする航海士がいます。気が焦るのでしょうが、いくら早め早めの行動が良いといってもほどがあります。15分も前に航海士に降りられると、船橋は手薄になってしまい、戦力ダウンで不安全状態となります。船橋からパイロットラダーまでゆっくり歩いて行く時間を考慮して、早すぎず、遅すぎず、適度なタイミングでパイロットを迎えに行きましょう。

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