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セメントを素早く固めるためには、砂以外に急結剤が不可欠

いざという時に役に立つ『パイプの応急修理』の話です。

ある船で直径300mmのグラスファイバー製のバラストパイプがバルブ操作ミスによるウォーターハンマー現象で引きちぎれるという大事故を経験しました。バラストラインの枝管が外れたのではなく、まるで巨人が両手でバラストパイプを引っ張ってちぎったような状態になっていました。当然のことながら、バラストパイプが外れたままではバラスト漲排水作業ができず、船の運航に支障が出てOff Hireになってしまうという重大な事態です。

したがって悠長に港に着いてから修理するというわけにはいきません。そこで航海中に応急修理をするために「セメント固め」を施して、ちぎれたバラストパイプの破口を塞ぐという作業を初めて経験しました。残念ながらセメント固めを行うために十分な資材を船には積んでいなかったので、シンガポール通峡中にセメントや角材等必要な資材を積み込みました。

作業手順は先ず、ちぎれたバラストパイプの破口を鉄板で塞ぎます。そしてパイプの損傷部分を覆うように約1m立方の木枠を作成しました。そこへ急結剤を混ぜたセメントを流し込みます。この急結剤がミソです。急結剤がなければセメントが完全に固まるまで数日かかりますが、急結剤を混ぜているので、1日経てばしっかり固まります。セメントには砂を混ぜて強度を高めます。砂も急結剤と同様にセメント固めにはなくてはならないものです。

セメント粉だけを水に溶かして固めても強度は不十分です。砂を混ぜることによって初めて期待する強度が得られるのです。砂はいわゆるセメント粉のつなぎです。最後に補強のために水圧のかかる方向と逆方向から角材を当てて作業終了です。バラスト作業中にはこのバラストパイプの破口に数トンの圧力がかかりますが、セメント固めによる応急修理で見事に耐えることができました。そして結果的に船の運航を止めずに済み、Off Hireも免れました。

応急修理の次は本格修理です。約1か月経って新替用のバラストパイプを受領した後に一仕事が待っていました。それは、カチカチに固まったセメントの解体作業です。数トンの荷重にも耐えることができた1㎥の固いセメントの塊を割るのは至難の業かなと心配していましたが、中ハンマーとチスで意外と容易にセメントの塊を細かく割ることができました。

もちろん甲板部員5、6人で1日程度の作業時間は必要です。中ハンマーを扱う甲板部員にも上手・下手があり、一見、体の細くて非力そうなABが意外にもハンマーの扱いが一番上手で、屈強で腕力のありそうなABよりも要領よくセメントを割っていました。ハンマーの振り方ひとつみても、コツや要領があるのだなあと感心しました。

ウォーターハンマーとは違いますが、液体や気体の圧力変動による危険な現象としてサージング(Surging)現象があります。流れる液体や気体の速度がパイプ内で急激に変化して異常圧力を発生させる現象のことをサージングと呼び、タンカーやLNG船ではポンプ操作やバルブ操作時に絶対に発生させてはいけない危険な現象です。

LNGの積地であるDas Island Terminalでは積荷作業中に世界的にも珍しい「Anti-Surge System」を使用します。設置方法は荷役前にマニフォールド下にあるBoxに陸上ケーブルを接続するだけです。このシステムは、実際のESD作動により本船のESD Valveが完全にShutとなる前に陸上ポンプを停止させるものです。これはESD Valve閉によるSurging(急激な圧力変動)で陸上ポンプやバルブを壊さないようにするための安全装置です。Das Island Terminalでは、このAnti-Surge Systemを装備していないLNG船は通常の半分のレートでしか積荷役が許可されません。

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