シンガポール海峡の7つの邪魔者

世界有数の航海の難所である『シンガポール海峡』の話です。

シンガポール海峡を通過する多くの大型船が安全航行を維持するために12ノット前後の速力で航行しています。そのため本船も12ノットでシンガポール海峡を航行すると、他同航船と位置関係がほとんど変化せずに長時間、至近距離を一緒に航行することになります。その結果、反航船との見合い関係よりも同航船との関係で危険な状態に陥り易く、航行に支障をきたすことが多くなるのです。

特にシンガポール海峡の夜間航行は非常に危険です。夜間は視覚によって得られる他船情報の質・量が著しく低下します。つまり、肉眼によって島や他船との相対的な関係から得ていた距離感覚がなくなり、航海灯から得られる見合い関係やレーダー映像だけで判断することになり、対応が遅れたり、誤った判断をしたりして非常に危険が伴います。

見合い関係について言えば、分離航行レーンを西航しているときにシンガポール港から出港してくるコンテナ船と見合い関係となったとき、本船が相手船を右舷に見るので避航船となります。分離航行レーンを航行しているからといって相手船が避けると思ったら大間違いです。この場合、海上衝突予防法が適用となり、本船が「避航義務船」となります。しかも、相手は大型コンテナ船です。ぐんぐん増速して強引ともいえるほど本船の前へ出ようとします。コンテナ船の船長は遠慮して速力を落として本船の後ろに回ってくれるような紳士ではありません。本船が避航船、相手船が保持船となり、本船が早目に避航しなければ危険な状況に陥ります。

次に喫水制限船のタンカーが左舷側から本船を横切って、シンガポール港のタンカーバースへ入港する場合はどうなるでしょうか?本船は保持船でしょうか、避航船でしょうか?正解はこの場合も「避航義務船」です。これも海上衝突予防法により、たとえ相手船が本船の左舷側から横切って来てもタンカーが喫水制限船の場合、そのタンカーが保持船となり、本船はタンカーの進路を避けなければいけません。

マラッカ・シンガポール海峡を航行するときの邪魔ものは反航船だけではありません。船舶の航行帯がある程度、整流されているので反航船と危険な見合い関係になることは思ったよりも少ないものです。以下に挙げた7つの邪魔者が本船の安全航行を脅かします。

(1) 同速力の同航船

変針点が近づいても同航船が変針する側の真横を並んで航行しており、邪魔となって変針できないときが一番困ります。目の前にどんどん浅瀬が迫って来て、いつになったら同航船が変針するのかと気ばかり焦ります。こういうときはVHFで相手船に連絡し、早めに変針してもらいましょう。また、シンガポール通峡中に食糧等を補給する船が突然速力を落として本船前方の航路が遮られることもあるので要注意です。

後続してくる船のことを考えれば、前方を航行する船は速力を落として補給活動を行うことをVHFで事前に後続船に連絡して、可能な限りどちらか航路端へ寄るのがシーマンシップです。とにかく周囲の同航船の仕向地をAISで確認して、その船がシンガポール入港船なのか、通峡船なのか把握して、常に同航船と安全な距離・位置を保つように心がけましょう。

(2) レーダーでも捉えにくい漁船

航路を塞ぐように多数の小さな漁船がいる場合は要注意です。早めに航行できる方向に針路を向けて漁船を避けます。同航船や浅瀬がそばにあって意図する方向へ進めないこともあります。最近はレーダーの性能も非常に良くなりましたが、昔の性能の悪いレーダーでは、荒波に浮かぶ漁船の映像が捉え難いため、非常に苦労したものです。

(3) シンガポール港へ入出港するコンテナ船

これが最も危険な存在かも知れません。過去にシンガポール入出港船と通峡船の衝突事故が何度も発生しています。シンガポール港へ入港するコンテナ船が急に本船の前を横切ったり、減速したりして本船の航行を妨害します。もちろんVHFで事前連絡があるはずもなく、突然の変針・減速です。良識あるシーマンシップなど期待してはいけません。

周囲の迷惑もお構いなしの船が多いので、要注意です。また、シンガポール港を出港して航路に入って来るコンテナ船も要注意です。本船が西航している場合は、相手船を右手に見るために本船が避航船となります。安全な速力で航行し、できるだけ早くシンガポール出港コンテナ船を発見し、相手船とVHFでお互いの意思を確認し、必要ならば早めに避航を開始しましょう。

(4) 錨地からの出航船

最近は、不景気でシンガポール沖の錨泊船がかなり増えているようです。航路ぎりぎりの位置で錨泊している船もあります。ひどいときには航路内にはみ出して錨泊している船さえあります。それらの錨泊船のお陰で、TSS(Traffic Separation Scheme)の航路幅が狭められ、航行域に余裕が少ないのが現状です。そして、その無数の錨泊している船の中から時折、錨を揚げてTSSレーンへ西航または東航してくる船があります。従って、先ほどのシンガポール出港船同様に錨泊している多数の船の中からいち早く動き出す船を見つけて、お互いの関係をクリアーにすることが重要です。

(5) 小型船、フェリー

シンガポール付近を航行している曳航船は、結構マナーが良く、自主的に大型船を避けてくれることが多いですが、漁船や小型船は自分勝手に航行することが多くて非常に危険です。他船の迷惑、我関せずといった調子です。可能な限り接近しないことが賢明です。

(6) 視界をさえぎるスコール

最近はレーダーの性能も良くなり、突然のスコール来襲でも障害物の映像をある程度は捉えることができるので大丈夫かもしれませんが、小さな手こぎの木製漁船はレーダーにも映らず、はらはらすることもあります。また、今のレーダーは昼間でもそのままモニター画面を見ることができますが、昔のレーダーは、昼間はCRT(Cathode Ray Tube)をフードで覆って暗くして見なければ使用できませんでした。そのため、身長の低い人は苦労し、特別な台が必要でした。

(7) Horsburgh北方海域の横切り船

以前、Eastern BankからHorsburgh向け南航コンテナ船が至近を航行していた同航コンテナ船と衝突するという事故が起こりましたが、その原因が東方海域より西航する横切りの小型船です。TSS向け南下する本船が保持船、横切ってくる小型船が避航船となりますが、この小型船のマナーが非常に悪く、避航動作を的確に取ってくれません。

しかたなく、南航する本船が避航動作を取るのですが、こちらとしてもHorsburgh向け航行しており、早めで大幅な変針は難しい状況です。私も何度か経験ありますが、相手船が避航するのを待っている間に相手船と非常に接近してしまい、肝を冷やしたことがあります。ここでは、可能な限り早めに針路を調整して横切り船と見合い関係を作らならないようにしましょう。

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