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AIOが提供される国、されない国 

電子海図上にT&P情報を重畳できるAIOの話です。

AIO(ADMIRALTY Information Overlay)は、紙海図のT&P(一時関係)情報のうち、ENC(Electric Navigation Charts)には含まれない情報を重畳する機能です。UKHO(英国水路部)が毎週発行し、ECDIS上でENCに重畳して利用できます。AVCS(ADMIRALTY Vector Chart Service)の利用者に無料で提供されており、AIO専用のPermit(GB800001)がPermit.txtに含まれて頒布されています。

ENCのアップデートにT&Pが含まれている?いない?

ENCは収録情報のアップデートが毎週配信されており、都度ENC情報が更新されています。例えると、紙海図が一時関係の情報も含めて毎週改版されているようなもので、なぜ、わざわざ別にAIOとして情報を配信しているのか?と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

実は、日本を含む一部の国は毎週のENCのアップデートに一次関係の情報も含めて配信されており、それらの国で発行されたENCを利用して航海する際はAIOを考慮する必要はありません。しかし、一次関係の情報が世界中の全てのENCに含まれているわけではなく、残念ながら、その対応は国や地域によってマチマチとなっています。そこで、UKHOは毎週、対応する紙海図ではT&Pとして提供されていて、且つENCには反映されていないT&P情報をAIOという形で収録し、配信しています。

AIO情報はポリゴンでENC上に重畳表示され、そのポリゴンをクリックすると、具体的な内容を確認できるようになっています。ただし、AIOはUKHOが提供するAVCSの付帯サービスで、あくまでAIOの情報は参考情報として配信されていることには注意が必要です。また、AIOの表示は紙海図のT&Pの更新時期よりも遅れる可能性が公式ドキュメントで謳われており、この点にも留意する必要があります。

AIO重畳のイメージ。赤枠をクリックして、詳細情報を参照する。
実際のサンプルは下記「User Manual ADMIRALTY Information Overlay (AIO)」に記載されている。

T&PがAIOで提供されるエリア

さて、実務的には今航海しているエリアではAIOが提供されているのかが気になるところです。そのような時に活用できるのが、T&PがENCに含まれている国、AIOを提供している国やエリアの一覧にまとめている、下記のUKHO発行の資料です。

参考 Status of T&P information in ENCsUK Hydrographic office

例えば、上のリストによると、日本のJPセルでは、すべてのT&P情報はENCの毎週のアップデートに含まれており、AIOの提供はありません。一方、中国のC1セルは、T&P情報は毎週のアップデートには含まれず、英国水路部が発行する紙海図のT&P情報がAIOによりENC上に重畳できるようになっています。しかし、同じ中国のC2セル(Hong Kongなど)については、Tについては毎週のENCアップデートに含まれますが、Pに関してはENCのアップデートおよびAIOには含まれません。(執筆当時)

AIOが含まれていないエリアでのECDIS上の表示

AIOが提供されていない国を航行する際にECDIS上でAIOを表示させた場合は、画面にどのように表示されるのでしょうか?その場合には、下図に示すように“No Overlay”とポリゴンで表示し、AIOが提供されていないことをユーザーに促します。

AIOが提供されていない海域での「No Overlay」表示のイメージ。
実際のサンプルは下記「User Manual ADMIRALTY Information Overlay (AIO)」に記載されている。

また、小縮尺の海図に関係しているT&P情報で、かつ、それが大縮尺の海図にも関連している場合には、“No Overlay”と記載があるポリゴンの中に、その情報が表示される場合があると公式ドキュメントでは指摘されています。また、AIOの情報が全ての情報を網羅しているものではないことにも注意が必要です。

参考 User Manual ADMIRALTY Information Overlay (AIO)The UK Hydrographic office

おわりに

本記事ではUKHOが提供しているAIOについて、その機能と注意事項を公式ドキュメントから紹介しました。AIOは全てのENCにT&Pが含まれていない状況だからこそ登場したサービスで、言い換えれば、電子化への過渡期にだからこそ必要とされたとも言えるのではないでしょうか。今後、各国のENCアップデート状況が改善したり、また、今後登場してくるS100フレームワークが標準となれば、「そんな時代もあったよね」と語られる日が来るように感じます。

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