船乗りが自然の恐ろしさを肌で感じる海の猛威についての話です。
ある小型のLNG船に乗船していたときの話です。その船で何と連続8日間もの長期間に渡り、風力6以上の荒天下を航行することになりました。しかもほとんどが向かい風の中での航行で、その半分以上の期間は台風の影響や高気圧の吹き出しにより風力8~10と猛烈な大時化です。風浪やうねりで海面は4~5mの高さに達します。私の長い船員生活の中でも8日間もの長期間、風力6以上(最高で風力10風速54kts)の逆風が続いた航海の記憶はありません。
全長が250m以上ある大型LNG船では風力6以上の逆風であっても、うねりが3m程度あっても何ら問題なく航行が可能です。しかし、その船の全長は150mしかなく、大洋の巨大な波浪(風浪+うねり)に周期が合ってしまい、大きな船体の揺れを発生します。しかも喫水が満船で7.5m、空船で5.6m程度しかなく、少し大きな波浪が発生すると船首部や船尾部が波に叩かれ、猛烈な船体振動を発生します。
いわゆるPunching/Slammingです。「ドッカーン、グワッシ、グワッシ、グワッシ」と船が嫌な音を発してきしみます。さらに猛烈な横揺れで船内のいろいろな物が転げ落ちて床に散乱します。横揺れだけでなく縦揺れも酷く、波の衝撃による振動も重なり、ほとんどの乗組員は熟睡できません。若い乗組員の中にはそれでも熟睡できたという強者もいたそうで、感心しました。
お陰様で日頃から少々太り気味だった私の体型も8日間の大時化で食欲減退、睡眠不足となり、体重が2kg以上減りました。まさに「荒天ダイエット」「大時化ダイエット」と呼ぶべき効果抜群のダイエット方法かも知れません。船体の揺れに対して常時、踏ん張っているので足腰の筋肉も普段より多く使っています。止まない雨がないのと同じように止まない時化もありません。猛烈な勢いであった時化も風が止み、海面状態が静かになると、何事もなかったかのように普段の穏やかな綺麗な青い海に戻ります。