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北太平洋横断航路:東への航海

安達 直安達 直

櫓櫂舟から巨大船までを操ることに恵まれた海技者として、また、その海技力を礎にした船舶管理者として、海運が急成長した時代を生きて心に残った経験や持論を纏めておきたい。これが、島国に住みながら何故か海洋と船舶に心の底から馴染めないのか、それらを文化基盤と成し得ていない日本人への水先案内になればと思っている。海や船に関わっている人か否かを問わず、それらの素養として読んでもらいたい。

東への航海

北太平洋を最短で横断できる大圏航路を東航すれば「大環流」に乗って漂流していても北米大陸に着くのであらゆる船舶にとって順風・潮の航路となる。ここでの航路選定には、この大環流の利用と最短距離の選択を基本戦略として、極力、西寄りの順風を受けて大圏航路に沿うように目的地点へ向かうべきだ。それには低気圧の接近で多少の荒天になっても低気圧の南乃至西の位置を離れず、時にはその中心付近の同航も有り得る。通常、温帯低気圧の中心部の等圧線間隔は周辺部より広がり風力も弱くなっている。逆に台風の中央縦断面は外に反った円錐形グラス状で中心に近付くほど気圧傾度が大きく、其処に向かって周囲から吹き込む強風が波浪を発達させている。一般的に、中心気圧が950hp以下の台風に対して航行するには、その中心から300浬程離すのが良策である。温帯低気圧の通常速力は5〜25ktsだが、急発達中には30ktsを超えて船舶を簡単に追い越す。その場合でも、温低の南側に位置しておれば風や波浪を背に受けて順走でき、危険な荒天状態になれば、随時、南方へ脱離できる。低気圧の前方海域は「時化前の静けさ」であるが、後方は転向した風の「吹走時間と距離の法則」によって掻き乱された高波高域となる。これらは荒天航海の心得として必須だが、最近のコンテナ船は低気圧を凌ぐ25kts程度の速力を有するので荒天に追いつかれず平穏海域内を続航することもできる。

コンテナ船の凌波

この順調な航路に在っても注意を要する局面は、北米目的地へ到着する数日前、右舷正横(南側)、或いはやや後方から横切る急激に発達する低気圧との遭遇である。夏場の好天時期を除いて、台湾の北付近の北緯20度・東経120度辺りからアラスカ湾付近の北緯50度・西経150度辺りにかけて長大な前線が停滞気味に連なる。その前線上の北緯30〜40度・180度付近にて、小さな大気の渦巻きが頻繁に発生して忽ち低気圧に成長する。これらがアラスカ湾向け急発達しながら最大30〜35ktsに加速して迫り来る時、適切な避航が肝腎である。目的到着予定時刻(ETA)を守るためにその前面を突破するか、右転してその後面に逃げるかの択一を迫られる。加速しつつ右舷側から横切る低気圧に吹き込む東寄りの逆風浪が強まる中では判断が難しくなる。ただ低気圧の南側海域は既に荒れているが、そこに吹く西寄りの風は東向け航行船には順風となるので低気圧の北側つまり前方航過に固執すべきでない。この温帯低気圧は夏季以外での北太平洋気象の常識であり、北緯35度の中緯度辺りから発育しながら高緯度へ北上する。これと横切り関係で出会う東航船は、右転して風浪を背に受けながら温低の南側へ迂回航過すべきである。いずれにしても南からの低気圧と遭遇するまでの時間的余裕を持つことが大切である。出発地点から大圏航路上、或いは、高緯度(北位置が有利)に占位しておれば低気圧の前面通過を狙い易い。その後面への迂回(右転南下)を余儀なくされても、最短の大圏航路から少々逸れただけの必要最小限の距離延長に留め得るだろう。

バルクキャリアーの荒天遭遇

シアトル、バンクーバーに向かうならば早めにベーリング海に入る手もある。アリューシャン列島は、西のカムチャッカ半島と東のアラスカ半島と共に北太平洋の頂部にベーリング海を切離する天然の防波堤であり、北太平洋で発育した高波浪を減衰し少しなりとも内海化している。従ってベーリング海が時化ても波浪は比較的短くて小さい。このように、北太平洋を東航横断する際の作戦を準備し、低気圧を発生時から確実に把握すべく出帆の4〜5日前からの天気図を研究しておくべきだ。

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