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安全のための検査であり、合格するための検査ではありません

船の安全維持のために実施されている『検査』の話です。

最近の船、特にタンカーやLNG船では毎航海のように検査、検査の連続で、乗組員がうんざりするほど検査漬けになっています。ざっと安全に関わる検査の種類を挙げると、年次検査、ISM及びISPSの内部監査・外部監査、Charterer’s Inspection、SIRE Inspection、年末年始安全総点検、一斉総点検、SI便乗検査、Master’s SIRE Inspection, Master’s SMS Audit、Master’s Inspection、Master’s Navigation Audit、PSC、HSE Inspection等々。


参考
安全管理システム(ISM)ClassNK


参考
船舶保安システム(ISPS)ClassNK

本来は船が事故・災害防止のために有効な安全対策を確実に実施していることを確認・評価するための検査であるべきです。それが、ただ単に検査に合格することを目的にした見せかけの安全対策を講じることが多くなり、本末転倒になっている部分が少なからずあります。

検査の準備・対策のために多大な時間、労力そして神経を費やしてしまい、肝心の実務に即した本当の意味での安全対策が施されず、事故・災害発生の防止がおろそかになっていることを否定できません。皆さんもその辺りを勘違いしないで下さい。私達が日々努力して行っている安全対策は、検査に合格するためのものではなく、自分の命や船、貨物を守るためであることを・・・・・・

ちなみに、HSEと言われてHealth、Safety & Environmentと直ぐに思い浮かべるほど、HSEが身近な言葉になってきましたが、最近は、さらにSecurity(保安)が加わって、HSEからHSSEとなっています。

「SIRE Inspection」 この検査の歴史を紐解けば、原油タンカーを対象とした検査として始まりました。昔は石油メジャー会社(エクソン、モビール、テキサコー、シェル、トタール、エルフ、カルテックスなど)が独自の基準により、それぞれが雇った別々の検査員が独自のチェックリストを使用して自社の貨物(原油)を運ぶ船(チャーター船)を検査していました。ですから、チャータラー(傭船者)が変更になる場合、いちいち新たに検査を受けなければいけなかったのです。これでは船側はその度に異なった基準の検査準備に追われて、たまったものではありません。


参考
About SIREOCIMF:Oil Companies International Marine Forum

一方、雇い主の石油メジャー側もチャーターする度に毎回、船を検査しなければ、その安全性が確認できないのでは大変で、非効率的です。そこで、この問題点を解決し、効率化を図るために、1993年、すべての石油メジャーが協議して認めた統一基準、統一チェックリストができあがったのです。

SIREとは、「Ship Inspection REport prgramee」の略で、その統一チェックリストは13章からなり、乗組員のライセンスや証書・書籍、甲板・貨物・機関・無線の各機器の状態から運用方法まで多岐にわたり、船内のあらゆる安全にかかわるソフト/ハード面の安全状態を確認するための検査です。現場の実務に重きを置いている検査であるため、状況さえ許せば救命艇降下、非常用消火ポンプや非常用発電機の作動テスト等実際の機器作動テストを要求されます。


参考
SIRE VIQ:Vessel Inspection QuestionnaireOCIMF:Oil Companies International Marine Forum

このSIRE Inspectionを受検すれば、その検査結果はロンドンのホストコンピューターに収められます。その記録は世界中の関係者に開示されており、ある船を傭船しようとする担当者にとって、その船の仕様・状態・安全レベル等が一目瞭然となるのです。ですから、毎年この検査を受検して一定レベル以上であることを認められていれば、どのチャータラーも安心してその船を雇うことができます。

最近の傾向として、このSIRE Inspectionはタンカーだけでなく、LNG船でも広く適用されつつあります。すっかりお馴染みとなったSIRE検査ですが、本来は安全対策の確認手段であるはずが、SIRE検査で指摘事項をなくすことが目的になってしまった現実を皆さんも一度真剣に考えてみて下さい。

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