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事故は五目並べのようなもの、五つそろったら負けです(その2)

残念ながら発生してしまった『バラスト枝管損傷事故』の話を紹介しましょう。

この事故は積地でのバラスト排出作業時に起こりました。通常、積地ではバラスト調整は排出作業のみで漲水作業を行いません。しかし、このときは数箇所のバラストタンクを予定より多く排出し過ぎたことにより、そのバラストタンクに再びバラストを漲り込んで最終トリム調整を行う必要が生じました。

排出作業時にはエダクターを使用してバラストを浚えており、バラスト管内は負圧状態になっていました。そして、排出作業から漲水作業に切り替えるとき、バルブを一気に開けて負圧となっている管内へ多量の水を急激に入れたため、管内を水が猛烈なスピードで走り、No.1左舷のバラストタンクの枝管がちぎれるという大事故となってしまいました。

いわゆるウォーターハンマー現象です。船尾の機関室から船首のNo.1タンクまで走る海水の衝撃力は想像以上です。バラストライン損傷という大事故でしたが、幸いRunning中の応急修理で復旧できたので、運航停止による莫大な費用損失は免れました。このときも以下の5項目のうち一つでも状況が良い方になっていれば、大事故には至っていなかったはずです。

① もし、予定通りの排水作業のみ行い、漲水作業を行っていなかったら・・・
② もし、Eductorによる浚えを実施していなかったら・・・
③ もし、Ballast管の材質がグラスファイバー製でなく鉄製であったら・・・
④ もし、C/Oが監督・指揮をしっかりしていたら・・・
⑤ もし、漲り込む前に上手くバラストラインの負圧を下げることができていたら・・・

私達が日々努力して災害事故防止に努めているのは、結局、ミスや故障が5つ並ばないようにすることだと思います。人は必ずミスを犯します。だからこそ入念な準備、打合せやダブルチェックが必要なのです。

機械もたまには壊れます。だからこそ順調に作動するよう機器の整備やバックアップ機能、フェールセーフ機能を備えた機器が必要なのです。こうして日頃から私達が実施している安全点検作業、保守整備作業がミスや故障が3~4つ以上並ばないようにして、結果的に災害事故防止に役立っているのだと思います。

五目並べはエラーの連鎖の話ですが、同じように「スイスチーズモデル」という、エラー連鎖のモデルがあります。アニメのネズミが大好きな穴のあいたスイスチーズをスライスして並べます。通常はどこかで穴がずれており端から端まで貫通することがありません。

しかし、ときには偶発的にスイスチーズの穴が一直線に並び貫通する事象が生じます。このスイスチーズの様子がいくつもの望まない状況やエラーが偶発的に連続して起こったときに発生する事故を表現しているモデルです。五目並べもスイスチーズも要はエラーの連鎖を断ち切り、事故とならないようにすることが目的なのです。

エダクターはどうやって液体を吸い上げるのか

 

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