たかがSIRE、されどSIRE

タンカーやLNG船で、絶対に避けて通れないSIRE (Ship Inspection Report Programme) の話です。

SIRE Inspectionを受検しているときに、ある外国人検査員が自慢げに話していましたが、その検査員が今までに検査した船の数は何と800隻を超えるそうです。そんな経験豊富な検査員を相手に小手先の誤魔化しが通用するはずがありません。例えば同じ検査員が同じような船種の検査をする場合でもインハウスの船とスポットで引っ張ってくる船とでは検査の厳しさが全然違うのです。明らかに「えこひいき」があって、インハウスの船にはずいぶんと甘くなり、外部の船に対しては非常に厳しく検査するそうです。検査員自らの発言ですから信憑性があります。

私達船側の誰もが不本意な思いですが、「たかがSIRE、されどSIRE」というのが現実です。SIRE受検時に検査員のご機嫌を損ねると指摘事項(Observation)が確実に増えることは周知の事実です。いかに検査員のご機嫌を損ねず、スムーズに検査を終わらせることが指摘事項を少なくする最も重要な検査テクニックの一つです。

最近、SIREを受検したときに、検査員が「着桟後は乗組員の皆さんは忙しいから自分で船橋や書類・証書のチェックを始めておきます。」と言われました。船長はじめ乗組員が船用品・食糧品積込みや会社からの訪船者との面談等に忙殺していると、約2時間後には検査員が怒って「こんなに待たされて、ぞんざいな扱いをされたのは初めてだ。他の検査員だったら気分を害して、検査をわざと厳しくして、船がひどい目に遭いますよ。」と興奮しながら説教を始めました。

検査員は「自分は検査をしてやっている、丁重に扱え。」といわんばかりの態度です。検査員の本心は「チャータラーの代理人としてSIRE検査をしてやっているのだから敬意を持って低姿勢で臨め。」ということです。内心あきれますが、顔には出さず、平身低頭、平謝りです。安全に全く関係ないところで、検査結果が良くもなり、悪くもなるということに、非常に割り切れない気持ちになりますが、それが「SIRE」なのです。気持ちを切り替えて「検査員もチャータラー側の立場の顧客の一員である。」と割り切って対応するしかありません。

SIRE検査の結果の良否として、どうしても指摘事項(Observation)の数に注目が集まります。しかし、本来は指摘事項は数ではなく、その内容が重要です。しかし、指摘事項がたくさんあると、どうしても関係者はそれを問題視します。また、最近聞いた話では、同じ章、同じ項目で4個以上の指摘を受けた場合は、重大な欠陥がある船と認識されて、いわゆるブラックリストにエントリーされるそうです。

実際に某船で同じNavigation関連の項目で4個の指摘を受けて積地ターミナルから入港拒否されて大問題になりました。また、同じ指摘(Observation)を繰り返して指摘されるということは、その改善措置を取ることができない、システムの欠陥とみなされ、High Risk船となり、最悪の場合はTechnical Hold、用船拒否、入港拒否等の措置が取られて、船会社としては商売に直結する大問題に発展します。

どの検査員が検査しても検査結果が同じになるのなら納得もできますが、検査員の性格・姿勢に依存するところが非常に大きいのが「SIRE Inspection」です。日本人の検査員は相対的に甘く、インド人やパキスタン人の検査員は厳しいというのも周知の事実です。検査項目によっては検査員の主観で判断しているところもなきにしもあらずです。安全とは全く関係なさそうな書類の不備まで指摘されたり、規則に規定されていないことまで指摘されたりします。

SIREに否定的な話をしましたが、安全に直結する有難い指摘も少なからずあります。従って、SIREにびくびく、嫌々対応するのではなく、SIREを本船の安全のために活用する気持ち、普段気が付かなかった不具合を指摘してもらって感謝という気持ちを持って検査に臨めばいいのです。SIREの検査がなければ日頃は気にもせず、おざなりにするような細かなことでもSIRE受検準備作業時や検査員に指摘されて初めて気付いたり、学んだりすることも少なからずあります。船長やC/Oはその責任の重さからSIREに非常に神経を使いますが、若い人にとっては自身の勉強にもってこいの材料ですので、責任が少ない若いときにSIREから安全に関する実務的な事項を一つでも多く学べば良いと思います。

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