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あるときはトップダウン、あるときはボトムアップ

組織が仕事に取り組むときや問題解決にあたるときの『意思決定プロセス』についての話です。

私が新米の3/Oであった頃、C/Oと船長のサインが必要な書類があり、先にC/Oにサインをもらわずに船長にサインをもらいに行って、叱られたことがあります。近くにいる人から順番にサインをもらうことは手っ取り早くて合理的なはず、何が悪いのだろうと思っていませんか?でも、それは間違いです。当然、それぞれのケースに応じて適切なサインの順番というものがあります。

普通、航海士が作成する多くの書類は直属の上司であるC/Oがサインをして、その次に船長へという順番でサインしなければいけません。下位職から関係者全員のサインを取り付け、そして最高責任者の船長が最後にサインするのが普通です。いわゆるボトムアップです。サイン(署名)はボトムアップです。下位職から順番に承認してサインするのです。

3/Oの仕事に対する監督責任者は甲板部主任者であるC/Oです。ですから、例えば3/Oの書類上のミスや失敗は基本的にはC/Oの監督不行き届きとして、C/Oが責任を負わなければなりません。C/Oはある意味で3/Oと運命共同体であり、3/Oを指導監督し、かつ保護・擁護しているのです。そのC/O承認のサインをもらわず、いきなり船長にサインをもらうということは仁義に反する行為です。サインひとつにも決められた順番があるということを十分に認識して下さい。

逆に、仕事の計画・指示は船長からC/Oへ、そして3/Oへという流れが基本です。船長が総合的に判断を下し、船全体の方針を決め、それをC/Oへ伝え、C/Oが実務的、効率的かつ安全な作業を計画して、2/Oや3/Oへ具体的に指示し、監督するのです。そして2/Oや3/Oが一兵卒として身を粉にして汗を流して犠牲的精神で働くのです。いわゆるトップダウンです。仕事はトップダウンです。

以上の話を簡単に言うと、「計画・指示・命令・監督・教育」はトップダウン、「確認・許可・報告・承認・提案」はボトムアップです。これは船だけに限らず、全ての組織に共通する世間の一般常識です。ちなみに、社風として「ボトムアップが多い」と言われる会社は風通しの良い会社で、逆に言いえば、トップダウンの少ない統制の甘い会社となるのでしょうか。要は時と場合によってトップダウンとボトムアップを上手く使い分けることができれば、組織が有効に機能する素晴らしい会社、安全な船ということになるのではないでしょうか。

社風と言えば、「組織の三菱」「人の三井」と言われています。これは三井・三菱・住友財閥の創業からの歴史により培われてきた文化です。三井の創業者は商人であり、三菱の創業者は武士です。そのため三菱系は国家との結びつきが強く、三井系は能力主義の経営を機軸にしていたのです。今では財閥も解体されて、三井・三菱各グループの結束力はそれほど強固なものではないですが、依然としてライバル関係にあるのは事実です。ちなみにもう一つの財閥である住友は「結束の住友」と呼ばれています。

ところで、皆さんはメモを添えずに上司の机の上に書類をポンと置いていませんか?サインが欲しいなら「サインをお願いします。」と書いたメモ、読んで内容を確認して欲しいなら「ご確認をお願いします。」と書いたメモを添えて相手に自分の意図を伝えなければいけません。何もないと、読んで欲しいのか、サインが欲しいのか、受領保管して欲しいのか、チェックして欲しいのか、上司が迷ってしまいます。厳しい上司だと、「この書類は何だ!何も書いていないので、さっぱり意図がわからない!」と書類を突き返されてしまいます。簡単でいいので、一言メモを添えて、上司の机の上や部屋の前へ置きましょう。

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