船の『浮力と復原力』の話です。
皆さんには釈迦に説法かも知れませんが、今一度再確認しておきましょう。あなたの周りにも極端な乗り物嫌いの人がいるでしょうか?「私は飛行機が大嫌い。あんな鉄の塊が空を飛ぶのが信じられないので乗るのが怖い。」あるいは「私は船に乗るのが大嫌い。あんな鉄の塊が海に浮かぶのが信じられないし、泳げないので怖い。」と言って飛行機や船に乗ることをためらう人がいます。あなたは、そんな人になぜ船が海に浮いていられるかを判りやすく説明することができますか?
簡単な説明例を紹介します。船は浮力(Buoyancy)によって支えられて海面上に浮いているのです。浮力がなければ船は浮きません。
では、浮力とはどのような力でしょうか? 浮力とは皆さんの知っているアルキメデスの原理です。船が押しのけた海水の重量と同じ重量の浮力を船は受けているのです。
浮力を簡単にイメージするには、まず、水深10mで1気圧 (1kg/cm2) の圧力を受けていることを想像して下さい。では水深5mではどうでしょうか?・・・0.5気圧 (0.5kg/cm2) の圧力を受けます。水深5mでは水深10mの半分の圧力です。つまり深い場所での圧力は浅い場所の圧力より強いため、上方への力が発生します。これが私達が浮力と呼んでいる力の正体です。そして、上向きの浮力と下向き重力の引き算で、浮力の方が大きい船は浮き、重力の方が大きい鉄の塊は沈むのです。どうですか?これで「なぜ鉄の塊の船が海に浮いていることができるか?」という質問をされても、誰にでも判りやすく説明できるのでは・・・・・
では、他人に「船はなぜ転覆しないの?」と聞かれて判りやすく説明できますか?キーワードは復原力 (Stability) とメタセンタ (Metacenter)。皆さんも学校で習って理解しているはずなので、思い出して下さい。
船が傾いていない場合の重心 (Gravity:G) と浮心 (Buoyancy:B) は同線上にありますが、船が傾くと浮心位置がずれて下方への力「重心(G)」と上方への力「浮心(B)」の位置関係から船を起こそうとする力が発生します。これが復原力です。
次に復原力の大きさに影響するメタセンタ(M)ですが、メタセンタは平衡位置での浮力の作用線と傾いた位置での浮力の作用線の交点です。図に描いてみれば判りやすいと思いますが、このメタセンタ位置が高いほど、つまりGMが大きいほど復原力が大きくなり、転覆し難いということになります。ただし、GMが大きすぎると横揺れ周期が小さ過ぎて、ぐらぐら揺れて人にとっては快適でなくなります。
また、波長100〜150mの大きな波の周期と船の横揺れ周期が同調、いわゆるSynchronizeすると揺れが大きくなります。しかし、大型客船では横揺れ周期が20秒近くあり、時化ていても大きな波と同調せず、あまり揺れません。しかも全長が300mもある大きな客船では波長100〜150mの波のエネルギーが分散されて横揺れには強いのです。
・・・・・ どうですか、これで船嫌いの人に上手く説得できるのでは。