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タンクのエアー抜きの弁当箱は逆止弁

甲板上にたくさん設置されている『エアー抜き』の話です。

Fore Peak Tank (FPT) のエアー抜き (エアーベント) が壊れるトラブルが多く発生しています。エアーベント内の浮体 (Float) いわゆる「弁当箱」が強い衝撃によって壊れるトラブルです。私達の想像以上にタンク内の液体貨物やバラスト水の動揺は激しいものです。しかも船の横揺れよりも縦揺れに要注意です。横揺れは前後のどのタンクにも同様に影響しますが、縦揺れは船体中央から遠い船首配置のタンクに最も影響を与えます。

動揺中心からの距離が長くなる分、その影響は横揺れよりも縦揺れが圧倒的に大きいのです。メンブレーン型LNG船へ乗船中に実感したことですが、Ballast航海時のカーゴタンクの残液レベルに注目していると、船首寄りの1番タンクは他タンクと比較して圧倒的にレベル変化が激しいのです。当然、船体中央に近いタンクほど揺れが小さくなります。

ちょっとした縦揺れでもタンクに残った液レベルは激しく変動します。逆にMidship付近の3番タンクは非常に揺れが少ないのです。ですから1番Midshipから遠いFPTは荒天になると、激しく揺れてタンク内の海水が踊り狂った状態です。その海面の動きに伴ってFPTはエアーの吸入排出を繰り返し、いわゆる呼吸をすることによりエアーベント内のFloatが上下に強烈に叩きつけられて壊れるのです。

イメージとしてはシーソーです。シーソーの真中にすわってもさほど上下には揺れませんが、両エンドに座ると飛び上がるほど上下動します。まさにあの状態が満水のタンク内でも起こっているのです。実際にある船では補油後の航海で台風に遭遇して激しい船体動揺のために船首のFOタンクのエアーベントから油が大量に漏洩するという事故が発生しています。エアーベントがタンク中央に位置しておらず、舷側に近いところに位置していると予想以上に油が吹き上げ易いのです。FOタンクが船首に配置されている船は荒天時は油漏洩に要注意です。

このような現象が現実に起こるということはManualには書いていません。実際の経験によって知るものです。Manualに書かれていない事象を自ら体験し、ひとつひとつ自分のものにすることによって、様々な経験と知識を融合させて自分のものとして応用できるようになり、ベテラン航海士と呼ばれる領域に達するのではないでしょうか。

激しい動揺によりタンク内の海水が動き、エアーベントが大きく息をします。そのため、エアーベントヘッド内にあるFloatが潰れたり、ガイドピンが折れたりします。Floatが潰れるトラブルが多発するため、最近メーカーは強度を高めるための方策としてFloatの材質をステンレス製からセラミック製に変更して、多くの船に設置しています。

また、エアーベントヘッドは船級承認を受けている安全装置なので、船で勝手に改良してはいけません。やむを得ず改良や修理をする場合は会社に相談・許可をもらって下さい。

エアーベントヘッドの内部構造を知らない人がいるかも知れませんので、少し説明します。エアーベントにはFloat (弁当箱) が入っています。なぜFloatが入っているのでしょうか? 海水がタンク内に流入するのを防ぐための逆止弁の役割をFloatが果たしているのです。(下図参照) 甲板上に打ち上げられたバラスト水はバラストタンク内には流入しません。

一方、タンク内からオーバーフローした海水は甲板上に噴出します。まだ理解できない人は乗船中に一度エアーベントヘッドのサイドカバーを外して内部構造を調べてみて下さい。「百聞は一見にしかず」です。

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