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海難事故から学べ!-6- 錨泊中の鉱石船の乗揚げ及び乗組員の死亡及び油濁

強風下における錨泊中船舶の座礁事故の話です。

鉱石船が豪州Port Walcottから鉄鉱石を積んで鹿島港沖6.5マイルへ到着して投錨、着岸を待っていました。風が強まったため、錨を揚げて沖合へ移動しようとしましたが、錨のトラブルにより抜錨に手間取り、強風に圧流されて海岸線から約2kmの地点に乗り揚げました。船体は2つに折れ、船首に取り残された乗組員が8名死亡、2名行方不明という痛ましい事故になりました。

同じ様に付近に錨泊していた他の鉱石船が錨を揚げて避難して無事であったという事実からも、本船の油圧ラインの整備不足に起因する揚錨不能、さらに迅速に捨錨できなかったことが悔やまれます。本船乗組員の懸命な作業が報われず、避難の時期を逸してしまったのです。

避難時期が遅れてしまった要因の一つとして、対外的な圧力・影響があります。もし、天候が予想したほど悪化せず、結果的には避難する必要がなかった場合、船側に否があるのではと考えると、船長はどうしても避難行動を早めに取ることに躊躇してしまいます。「船長は船・貨物・人命の安全を第一に考えて迅速な対応をすべきである。」と理想論で片付けられることはできません。船長の立場ではどうしても商売・営業に与える影響も考慮してしまいます。

この問題を解消するには船(船長)を孤独にさせずに、陸上からの適切な情報のもとに船長が容易に総合的かつ合理的な判断を下すことができる環境を陸上(会社)が用意することが重要です。例えば、陸上担当者から早めに船長に対して「抜錨して逃げることが必要ならば、陸上側の事情を気にせずに遠慮なく決断して下さい。」という助言があれば、船長も行動を取り易くなります。

さらに、避難時期が遅れてしまった理由として、船長が外国人であったことも影響しているかも知れません。日本沿岸を急激に発達・通過する低気圧の恐ろしさを熟知している日本人船長なら違った結果になっていたかも知れません。

ポイントを整理すると、以下の5点が今回の事故防止に必要な対策です。

  • 危急時における適切な状況把握とリスク評価を行うこと。
  • 緊急運用を可能とする設備であること。
  • 失敗を想定した対応を取ること。プランBを用意しておくこと。
  • 安全に係る設備を点検・整備すること。
  • 陸上から適切な情報提供や助言を受けること。
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