話を二つ。『骨伝導』の話と『合図』の話です。
皆さんの船にも骨伝導マイク&スピーカー (Bone Conduction Microphone & Speaker) を搭載していますか? 消防員装具を着用していると耐火フード付きのヘルメットをかぶり、おまけに厚い手袋をしているためトランシーバー操作がスムーズにできません。というか、トランシーバーは使用できません。
火災現場の最前線で消防員装具を着て消火活動に従事している人と連絡がとれないようでは、現場指揮者や船長が火災現場の状況を把握できないため、消火活動に支障を来します。その対策として骨伝導マイク&スピーカーが支給されている船があります。
1985年に筑波万国博覧会が開催されましたが、私は実際に筑波万博へ行きました。そのとき、どこのパビリオンか忘れましたが、あるパビリオンで骨伝導電話のデモンストレーションを行っており、それを実際に試したことがあります。どのような仕組みかわからないまま、自分の頭骸骨に受話器を当てて、人の話し声が聞こえてきたときには、非常にびっくりしました。頭に受話器を当てて人の声が聞こえるなんて、何か手品で騙されているのではと思いました。しかし、20年以上経った今では骨伝導は実用化されて身近な存在になりました。
カセットテープで自分の声を再生すると何か自分の声でないような奇妙な声に聞こえます。なぜかと言うと、人が音を聞くときには2種類の音を同時に聞いているのです。ひとつは空気の振動により鼓膜から聞こえる「気導音」です。もうひとつは空気を介さずに頭蓋骨から直接伝わる「骨導音」です。「鼓膜で感じる音」と「頭蓋骨で感じる音」2つの音があるのです。普段は自分の声を2種類の音、気導音と骨導音を同時に聞いていますが、テープレコーダーから流れてくる自分の声は気導音でしか聞いていないため、自分の声が違和感のある声に聞こえるのです。
皆さんは係留作業やクレーン作業を行う場合、笛を使ったり手信号を使ったりして相手に自分の意図を上手に伝えていますか?大型船の広い作業場では相手に声が届かないこともあるので、笛や身振りによる伝達が必要になるのです。笛信号と手信号を比べると、笛で相手に伝えることができる信号よりも手で合図する信号の方が種類は豊富です。例えばある会社が取り決めている笛信号は7種類ですが、手信号は12種類あります。
手信号で「少し巻け」と指示したいときは小指を小さく、ぐるぐるまわせばその意味が伝わりますが、笛では上手く伝わりません。ただし手信号は指示者の手を見なければ伝わりませんが、笛信号は自分の方を見ていない相手にも意図が伝わります。しかも複数の人に容易に伝わります。笛でおもいっきり「ピピッ」と吹けば、誰もが注目します。皆さんは、笛信号と手信号の長所・短所を考慮して作業状況により適当に組み合わせて、巧みに相手に自分の意図を伝えることができていますか?
ちなみに下図のように親指を立てる合図は「OK (了解)」という意味ですが、昔は右図の親指と人さし指で輪を作る合図が「OK」でした。
今でも何気なく親指と人さし指で輪を作って他の人にOKの合図を送っている人はいませんか?日本国内では輪を作ってOKという合図で全く問題がありません。しかし、聞くところによると南米かどこかの国ではこの輪を作る指の合図はおしりの穴、つまり肛門を意味するそうで、勘違いされておかしな意味に取られては信号としては好ましくありません。そういう理由で数年前にある会社もOK信号を「指の輪」から「親指を立てる」仕草に変更しました。