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指示は丁寧すぎるぐらい、しつこいぐらいで丁度良い

『ああ勘違い』という話です。

あるバラ積船に船長として乗船していたときのことです。出港作業時にタグがスタンバイし、エンジン、舵すべて準備ができたので、船橋から船首尾配置のフィリピン人C/O及びフィリピン人2/Oに「Fore and Aft station, Single Up!」とオーダーしました。当然、私はスプリング2本を残してヘッドライン・スターンラインやブレストラインを全部レッコーするものと思って見ていました。

すると船首はブレスト1本とスプリング1本を残してあとのラインをレッコーして「Single Up Sir」と報告してきます。船尾はというと、ブレスト2本を残してあとのラインをレッコーして「Single Up Sir」と報告してきます。私はてっきりスプリングだけを残し、他のラインを全てレッコーした状態がSingle Upであると思っており、そのつもりでSingle Upをオーダーしました。「Single Up」という言葉の定義が「直ちに岸壁を離れることができるよう最低限のラインを残して、他のラインをレッコーする。」という意味に解釈すれば、彼らは決して間違っていません。

スタンバイ作業が終わり、C/Oと2/Oに事情を聞くと、彼らが過去に乗船していたコンテナ船やPCC船と同じようにSingle Upしただけであると言います。問題は、本船におけるSingle Upの状態がどのラインを残すかという共通認識が船橋(船長)と現場(C/O&2/O)の間でできていなかったことです。

このときつくづく思いました。的確なオーダーをしなかった私が悪いのだと。「船首尾ともにスプリング2本を残してあと全部レッコーして、Single Up!」とオーダーすれば混乱は一切発生しませんでした。このように相手は自分の意図することがわかっているという思い込みでオーダーすることは、決してやってはいけません。皆さんも部下に指示するときは、ひとつひとつ細かく、指示する癖をつけてください。丁寧すぎるぐらい、しつこいぐらいで丁度良いのかも知れません。

「勘違いしない、させない方法」で思い出しましたが、最近、あるC/Oが甲板部へ作業のオーダーをするとき、すごく上手いやり方だなあと思ったことがあります。それはC/Oが甲板部の整備作業をボースン以下甲板部員に説明するときに、デジカメで現場の不具合を撮影した写真を見せながら作業方法を指示することです。そのC/Oは毎日のように写真を用いて部下へ指示していました。これなら言葉の壁も関係なく、一目瞭然で誤解、勘違いが生まれることもなく、的確なオーダーができます。また、整備作業終了後にも同じアングルから写真撮影をしておけば、誰もが見やすい整備記録となります。

ところで、勘違いと言えば、次の写真の「扉の取手」を見てください。ある船の居住区内の消火栓の扉です。

この取っ手を持って扉を開けるとき、取っ手を回して開けようとする人がほとんどだと思います。しかし、実はこの取っ手は回転しません。取っ手を引っ張って開けるタイプなのです。私達は先入観で判断・行動する傾向があり、自然と取っ手を回そうとします。そのため、わざわざ「Pull」という表示を貼り付けているのです。このように勘違いさせる構造となっている機器は不安全状態であり、安全上はよろしくありません。

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