事態を深刻化させないための手際良い事後処理

外航商船の船乗りにはあまり歓迎されていない『漁船』の話です。

バラ積船で内地揚地(水島)向け明石海峡を航行中の出来事でした。パイロット嚮導のもとで私が2/Oとして明石海峡を通過していたときのことですが、右舷前方から本船に接近してくる横切り漁船がありました。

私の当直が終わり、部屋へ帰って窓を覗いて見ると、依然として漁船が右前から接近してきます。本船は航路航行中で左右に余裕がなく大幅な避航動作が取れないため、汽笛をひっきりなしに鳴らしましたが、相手の漁船は前方を見ていないのか、一向に避ける気配がありません。そして本船右舷舷側から約30m手前でやっとその漁船が本船に気付いて避航動作を取りました。しかし、時既に遅く、本船の右舷舷側に衝突してしまいました。

衝突といっても漁船はほとんど行き脚が無くなっていたため、船首がちょこんと当たった程度です。パイロットは少し緊張し、あせっていたようですが、そのときの船長の対応の素早さには感心しました。すぐさま関係先(会社や保安庁)に連絡し、事故の概要を説明しました。そして、水島港に入港すると保安部の担当者が事情聴取のために訪船してきましたが、漁船側に大きな被害もなく、お咎めなしとなりました。

このときにつくづく思いました。事態をさらに深刻にさせないためには、迅速かつ適切な事後処理が最も重要だなあと。必要な関係先に連絡し、必要な記録を確保し、被害が最小になる処理をすることが事態を拡大させずに被害を最小限に留める秘訣です。

残念ながら漁船との衝突事故はなくならず、ときどき発生します。衝突事故が発生すると法律上の見合い関係や避航方法が議論の的となりますが、衝突には海上衝突予防法等の海上法規の適用以前の問題が内在します。それは漁船が前方を見ていないことが多いという事実です。漁を終えて港に帰る漁船は魚市場での水揚げの準備かもしれないし、あるいは傷んだ魚網の後片付けをしているかもしれません。同じく港から出漁する船で、これからはじめる漁の漁具の点検を行っているかもしれません。漁船は前方を見ていないと疑って操船することが本船の安全にとっては無難です。「漁船が避けてくれるであろう。」という「だろう操船」は危険です。

10m足らずの小型漁船が長さ200m以上もある巨大船のどてっぱらに衝突する事故が起こったときは、おそらく漁船側は誰も前方を見ていないと思われます。操業している漁船では避航動作が困難なケースも多々ありますが、出漁あるいは港へ帰る漁船が目の前の大きな巨大船を避けることは車でカーブを曲がるぐらいにいとも簡単なはずです。大舵を取れば数十mで反転できるし、機関停止・機関後進であっという間に行き脚がなくなります。ですから漁船が巨大船の側面に正面衝突するということは漁船が相手の船を見ていないということです。

出会う漁船は航行中の漁船だけではありません。操業中の漁船もあり、漁法にも様々な種類があります。相手を知らなければ、戦いには勝てません。操業している漁船、ただ浮いて潮待ちしている漁船、漁具(魚網)を揚げている、降ろしている漁船、二そう曳きの漁船等々。そして、港から出漁する漁船、港へ帰る漁船等々、漁船との戦いはどんな作業形態の漁船かを識別するところから始まるのです。航海士は漁船を見つけたら、相手がどのような動きをするかを見極める目を持つことが必要です。

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