実際の火災で使った人はいないと思いますが、『Fire Wire』の話です。
タンカーやLNG船等の危険物積載船では、入港中Fire Wireを船外海面近くまで降ろしておいて、火災や津波等緊急の際はいつでもタグで引っ張って離桟できる状態にS/Bしています。このFire Wire設置方法は大きく分類して2種類あります。デッキ上にSnake Downする/しないの2種類です。
どちらでも良いという港もありますが、大概はどちらか一方に決められています。あるターミナルへ行くと甲板上へ絶対にSnake Downせずに直接船外へ出すように指示されます。逆にSnake Downを要求する港もあります。結局どちらが正解ということはではなく、ターミナルの要求に沿う形に準備すれば良いということです。
豪州のDampier港ではFire Wireの準備は不要(執筆当時)となりました。LNG船で入港するときにFire Wireを舷外に降ろすことは一切不要です。理由は明快です。Fire Wireを利用する確率は非常に小さいにもかかわらず、そのFire Wireを準備する作業員が怪我をする可能性があるほど危険な作業だからです。実際にどこかの船でFire Wire準備作業で乗組員が怪我をしたのかも知れません。
安全対策を講じるために乗組員が怪我をしていては本末転倒です。まさにリスクマネージメントの結果なのでしょう。ほとんど発生しないHigh Riskよりも頻繁に発生するHigh Riskの発生防止を優先させた結果です。確かにFire Wireの準備作業がなくなれば、Fire Wireで怪我をする人はいなくなります。また、Fire Wireが舷外にぶら下がっていると、タグボートの作業にも邪魔になります。
Fire Wireがなくても大型の危険物積載船はETA(Emergency Towing Arrangement)を装備しているので、このETAを利用すれば、Fire Wireと同じ緊急対応ができるというのが建前です。実際にはETAを利用するためには、かなりの時間と手間が必要ですが・・・。Fire Wireの準備不要という決断は欧米人の合理的な考え方と言えるでしょう。
Fire Wireの使用期限ですが、他のWireのようには明確には定められていません。他のWireは船舶管理会社が一定の基準を定めており、例えばMooring Wireは2.5年(Dock to Dock)で振り替えて5年で新替え、HMPE(High Modulus Polyethylene) Ropeは5年で振り替えて10年で新替え、Tail Ropeは18ヶ月で新替え等の明確な使用期限を設けています。
しかしFire Wireに関しては外観目視点検で発錆が酷くない状態であれば、取り替える必要はありません。概ね10年間程度は使用可能ではないでしょうか。Wire類の振り替えと言えば、救命艇のBoat Fall Wireのドックでの振り替えが最近のClassで要求されなくなりました。今までは、2.5年目のドックで両端を振り替え、5年目のドックで新替えというのが定例でした。
振り替えが不要となった理由は、その構造上Wireを振り替えてもシーブやドラムで使用するWire部分は殆ど変わらないため、振り替える効果が少ないということです。それならば、もっと昔からBoat Fall Wireの振り替えを止めても良かったと思いますが、最近は5年毎にドックでBoat Fall Wireを新替えし、中間の2.5年目に振り替えをやらない船が増えてきました。おそらくこれからはBoat Fall Wireの振り替えはなくなることでしょう。