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エンジン・ア・ラ・カルト(その6)

ビルジ排出

記載内容は執筆当時のものです。最新の情報をご確認ください。

船ではどうしても「ビルジ」という油混じりの汚水が溜まってしまいます。大昔の帆船時代からビルジは船にとっては必ず発生するものです。救命艇や漁船ではビルジ排出を「あか汲み」と呼んでいますが、一般商船からのビルジ排出は陸岸から何マイル離れればOKとなるでしょうか?意外なことに明確な距離の制限規定がありません。タンカーの貨物タンクからの希釈水の排出は陸上から50マイル以上の海域と明確に定められていますが、船舶のビルジについては距離の明確な規定がありません。ビルジ排出は「航海中で15ppm以下で出来る限り陸岸から離れて排出すること。」となっています。

距離を明確に定めることができない理由の一つが、例えば12マイルと距離を設定してしまうと、内航船のように陸岸近くしか航行しない船にとって機関室ビルジの排出ができなくなってしまいます。そのため15ppmと比較的油分の少ないことが確認できれば、極端な話、防波堤を過ぎて港を出ればいつでもビルジ排出が可能です。しかしながら、あまりにも陸岸から近い場所での排出は、不測の事態による油流出事故の発生リスクが高すぎるため自粛すべきです。原則として陸岸から12マイル程度は離れた海域でビルジを排出することが常識的慣例になっています。

「マジックパイプ」と聞いて何のことかわかりますか?マジックに使用する小道具ではありません。機関室のビルジを油水分離装置を通さずに、直接船外に排出するため、排出ラインに取り付けるパイプのことです。違法行為を行うための道具です。ビルジが多量に発生する船で油水分離装置の調子が悪いと、ビルジ排出が間に合いません。そのために苦肉の策として、違法を承知でビルジを直接海洋へ投棄する船が多々ありました。港での立ち入り検査で見つからないよう、入港前にはそのパイプを外して、隠します。この違法行為を行うために用意しているパイプを「マジックパイプ」と呼んでいます。

最近は海洋汚染に対して世論が厳しくなり、流石にどの船でも「マジックパイプ」なるものを使用していないはずです。大昔(例えば40年以上前)には、まだ海洋環境の保護意識が相当に希薄でした。そのため少々の油分があっても平気で船外排出している船も多かったかも知れません。しかし、今では油分濃度の高いビルジの排出は一切許されません。ですから管理会社は勝手に不法排出できる「Pipe Arrangementの改造」を船に対して禁じています。

ある船では1/Eがビルジを不正に排出したことをOilerがUSCGに内部告発して、摘発されました。やはり悪いことはできないものです。検挙されると罰則は非常に厳しく、莫大な罰金が科せられることになります。

万一船上で処理できない廃油があれば、高額な経費がかかっても港で正当な手段で陸揚げするのが船員の義務であり、海洋環境保全のための社会的責任です。ビルジの不正排出だけでなく、油記録簿(Oil Record Book)の改ざんも厳しく罰せられることになります。ビルジや油の不法な排出の証拠がなくても油記録簿を改ざんすることはそれと同等に厳罰に処せられることを乗組員全員が十分に理解しておく必要があります。

Oil Seal

油圧ポンプに使用されているオイルシール(Oil Seal)は下写真のような形状をしており、シャフト貫通部に取り付けて、作動油がシャフトを伝って外側へ漏れるのを防いでいます。経年劣化、ペイント等ゴミ詰まりによって油漏れが始まるとシャフトを抜いて予備品と交換しなければいけません。

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