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船長は船橋で一人、イライラやきもきしています

仕事を行う前には、綿密な計画や周到な準備が必要です。そんな『仕事の段取り』の話です。

大洋航海中、大多数の船長は用事もないのにぶらっと船橋にやって来て、若い航海士相手に笑顔で昔話や面白い体験談をカタフリしていることでしょう。しかし、ところ変わって、船舶輻輳海域や入出港、狭水道通過時には船長の態度・精神状態は一変します。

普段の笑顔が全く消えてしまい、口数が極端に少なくなる船長もいます。例えば、シンガポール通峡中に食料や船用品を補給することがあります。このとき船を6~7ノットまで減速させての積込み作業となりますが、周囲には多数の同航船、反航船、横切り船が右往左往と輻輳しており、本船は他船を簡単には避航できない非常に危険な状態となります。

この状況下では、船長は一刻も早くその状況から脱したいので、早く積込み作業が終わらないかと、船橋で一人やきもき焦っています。そんなとき、各航海士は船長の気持ちを汲み取って、少しでも早く積込み作業を終わらせてあげましょう。もちろん船長のためではなく、本船の安全のためです。船舶輻輳海域での減速航行という不安全な状態から一刻も早く脱出することが安全維持につながります。

補給作業が終わると、サービスボートから領収書(Voucher)・請求書(Invoice)に船長サインを要求されます。それを甲板上で受け取って、ブリッジへ持って上がって、船長がサインし、スタンプを押して、また持って降りるとそれだけで5分以上が経ちます。そのときの船長のイライラはピークに達します。ですから気の利いたC/O(航海士)は甲板上にスタンプとボールペンを用意し、自分でサインしてボートへ渡します。これぞ、手際よい見事な段取りです。要領・段取りの良い航海士として船長に信用されること間違いなしです。

ちなみに、航行中に補給作業をするときに、待ち合わせ場所のことを英語で「Meeting Point」と言う他に「RZV Point」という言葉がよく使われます。フランス語のRendezvousの略語で「約束の場所」と言う意味です。宇宙船同士が結合するときに使う「ランデブー」と同じです。船用品や食料をペルシャ湾やシンガポールで積込む場合、よくこの言葉を使いますので、「RZV」とは合流位置のことだと覚えて置いて下さい。「RZV Point 01-05N、 115-20E」というメッセージが届いても戸惑わないで済みます。

場所を表す「AFSPS」という略号もときどき目にします。Chartererとの用船契約開始地点に「AFSPS」を使うのです。意味は「Arrival First Sea Pilot Station」です。Bay Pilotの乗船地点到着をもって契約が開始となる重要な意味を持つ略号です。

ちなみに、シンガポール通過時は物資補給、人の乗下船を行うことができる絶好のタイミングです。皆さんも長い間船員をしているとシンガポール沖を通過中に食料や船用品の物資を積込んだり、急病人や業者を乗下船させる機会が何度も訪れるはずです。

シンガポール沖で比較的安全であり、現在RZV Pointに指定される場所は主に2箇所です。一つはChangi沖で、もう一つはNipaブイ付近です。この付近を6、7ノットまで減速してシンガポール港から出てくるService Boatと合流します。逆に言えば、Changi沖からNipaブイ間の海域は航路が狭く、船舶の通航量も多く、シンガポールへの入出港船も多いため、本船が大幅に減速して物資補給や人の移乗を行うには危険が伴う海域なのです。

段取りと言えば、パイロットが下船するときに予めエレベーターを船橋(最上階)まで呼んでおき、パイロットがエレベーターに直ぐに乗れるようにしておきます。エレベーターが最下段まで降りていたら、船橋まで呼ぶのに非常に時間がかかり、このときの船長のイライラ度もかなりのものです。パイロットが下船する頃を見計らってエレベーターを呼んでおくのも見事な段取りです。船長の好印象、間違いなしです。

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