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ドックならではの作業 いろいろ

英語のドック(Dock)には埠頭や桟橋という意味もありますが、ここでは『入渠』の話をいくつか紹介します。

船は2年から3 年に1回はドックに入って修繕作業を行います。外航大型船の場合、ドック期間は短くても2週間程度、バラストタンクや主機関の延命工事などがあれば、2、3か月もの長期間、ドックに入ることになります。基本的にドックではどんな工事も可能です。

火気使用も可能であり、大型クレーンの使用も可能、メーカー技術者・作業員の大量投入も可能です。ですから、普段の航行中にできない不具合を一気に修繕してしまうのです。特にDry Dockでは船底や船体外板の汚れ・貝殻の除去掃除や塗装を行います。それ以外にも普段、航海中には停止することができない機器をドックの機会に完全停止して様々な点検や修理を行います。

ドックに入ると普段あまり意識していない電力、冷却海水、蒸気、圧縮空気、雑用水、飲料水等の供給システムを嫌でも注意して見るようになります。本船のボイラーの火が消えてしまえば蒸気が使えなくなり、発電機が止まってしまえば、陸上電源を船につないで供給してもらわないと船内照明も点灯しないし、機器も動きません。清水や圧縮エアーも清水ポンプやコンプレッサーの工事があれば使用できません。

電源がなければ、すべてドック側からの供給に切替えなければいけません。機関士と違って航海士はあまり気にせずに電気や水を利用していますが、これらの供給がストップする事態になって始めて、その機器やパイプラインに意識がいくのです。そういう意味でも航海士がドックを経験することは非常に良い機会です。


ドックでは広範囲に亘って修理作業を行いますが、ドック側はいくつかの部門に分かれており、各部門に「技師」というリーダーが任命されており、各部の修繕業務の監督・指揮を執っています。例えば、シンガポールのある造船所では、Project Managerのもとに6人の技師(Hull, Piping、Machinery、Cargo、Electrical、Shipwright)が1チームとなって作業を行っていました。また、ある日本の造船所の場合では、Project Managerのもとに船体、機関、貨物、電気の4種類の技師が作業を指揮していました。

ドックで働く人々の所属先ですが、造船会社の正社員はごく一部分の人達です。昔は造船所に所属している作業員がたくさんいましたが、造船所も合理化が進み、コスト削減のため造船所のプロパー社員はほとんどいません。大勢の下請け業者、孫受け業者、メーカーのサービスエンジニアがドック作業を行っているのが実態です。


ドライドックは何十万トンという海水を漲ったり引いたりするので、漲水・排水能力が高いポンプを装備しています。また、残水の水はけが良いようにドライドック底はゆるやかに傾斜しており、その傾斜角度はおおよそ300分の1か200分の1程度です。ですから200分の1の傾斜の場合、200mで1mの高低差があります。長さ300mの船がドライドックに入る場合、1.5mの船尾トリムでドライドックに入ると盤木に平行にキールタッチすることができるのです。

船がドライドックに入ってドックゲートが閉まると、直ぐに排出が始まります。そしてDry Upになる前に早々にドック底へ降りていく人々がいます。ドック作業員もいれば、本船の乗組員もいます。彼らの目的は魚です。ゲートを閉めることによってドライドック内に魚がたくさん閉じ込められているのです。

まるで大きな網で囲い込む漁のようです。長靴でドライドック底に入れるようになると、我先にと競うように網とバケツをもって魚をすくいに行くのです。この間、入渠したときには7、8人の本船乗組員がドライドック底に降りて魚を手ですくい、写真のようにバケツ3杯もの小アジをゲットしました。


ドックへ到着すると、先ず真っ先に、修理資材、足場資材の甲板上への搬入がドックのクレーンを使用して始まります。甲板上に溶接機、閉鎖区画用換気ファン、足場資材、各種電線・ホース類がところ狭しと並べられます。そして居住区内では「養生」が始まります。

ドック期間中は甲板上も居住区内も修繕作業で発生する埃、油、資材等で非常に汚れてしまいます。そのため居住区内の階段・廊下・椅子等が汚れないようにビニールシートやベニア板を階段や廊下に敷き詰めます。椅子にもビニールシートをかけて汚れるのを防ぎます。


ドックでよく困ることは、甲板部が錆打ち整備作業でジェットチセルを使用するときに十分なエアーがないことです。船のエアーコンプレッサーが使用できない状態で、しかもドックからの圧縮空気もSand Blast作業で占有されており、ドックからのエアー供給が十分でないケースが頻繁に発生します。その結果、ドック中の甲板部の整備作業が予想以上にはかどりません。温水についても、蒸気式の温水装置の船ではドック中に温かい水がシャワーからでてこないことも度々です。

また、陸上電源の容量不足から、ウィンドラスやウィンチを始動させたときに陸上電源のブレーカーが落ちてブラックアウトすることも珍しくありません。そのため、ウィンドラスのような大容量の電気が必要な場合は、陸上から別電源を取ることもあります。冷却海水や清水も十分な供給量でなく、船内のエアコンや冷凍機が使用できないこともあります。このように普段何気なく、当たり前のように恩恵を受けているものが利用できなくなるのがドックなのです。


ドック中に甲板部がどんな整備作業をするか事前に計画します。ファンネル塗装、居住区塗装、タンク塗装、バラストエアー抜き整備等々。しかし、ドック中は毎日のようにドック関連作業が甲板部に発生して、そちらに人手が取られて計画通りには整備作業がはかどりません。ですからドック前に計画した甲板部整備作業が計画通りには行かないからといってあせる必要はなく、計画の半分ぐらい終われば良しとしましょう。


ドックについて全く知識のない人にとっては、ドック後の船は船全体が塗装し直されて新造船のようにきれいになっているような印象を持っています。しかし、実際にはドック出し直後は甲板上や機関室の床はドック前より汚くなるのが普通です。ドック出し後に乗組員が清掃作業や塗装作業を数か月かけて実施して、やっと綺麗な状態になるのです。

ですからドック後の港で、乗船してくる訪船者が外板は綺麗に塗装されているけれども、甲板上や機関室が汚れているのを見て、イメージしているドック出し後の本船の状態と違うことにがっかりする人もいます。できればドック後の最初の港へ入る前に、舷門から居住区内までの通路はきれいに全塗装して、訪船者の好印象を得たいものです。


ドック出し後に注意すべき事項として海水による船内浸水があります。ドックではStorm Valve、Draft Gauge船外弁等船外に通じるバルブの開放整備を行います。また全てのバラストタンクのマンホールも開放します。そのため、ドライドックで注水を開始したときは要注意です。Draft Gaugeの船外弁から海水がじゃじゃ漏れであるというトラブルも結構多く発生しています。マンホールも閉め忘れやボルトが緩んでいて、バラスト漲水後に水位がマンホールより上になる場所では海水が漏洩することもあります。思わぬところで海水が浸水しているかも知れません。

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