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初乗船で若手航海士は何を感じていたのか(第2回)

航海士として一隻目の乗船を終えたばかりの若手航海士、山田拓海さん(仮名)に、現場でのリアルな心境を語ってもらうシリーズ2回目です。

第1回では彼が語ってくれた「小さな貢献の積み重ね」を取り上げました。

船内で新しく生まれた雑務を拾い、自分のルーチンにする。その結果、上司の負担が軽減して喜ばれる。そして「また頼もう」という信頼に繋がっていく。それは、とても健全で、前向きな仕事の取り方です。彼の言葉からは、現場をよく観察し、自分なりに役割を見つけていこうとする実直な姿が強く伝わってきました。

一方、閉鎖された船という空間の中で、周囲との距離感に悩んだり、自分の立ち位置を模索したりする時間もあったはずです。第2回では、その行動の裏にあった内面の揺れに目を向けます。

上司のタイプをどう見極める?

−− 事前にいただいたアンケートで、「初期段階で上司のタイプを掴むのが大事」と書かれていました。とはいえ、初対面の相手を「この人はこういうタイプだ」と見極めるのは、難しいことだと思います。自分なりの「物差し」みたいなものがあったのでしょうか?

そうですね。自分が一番重要視していたのは、その人が「仲良くしたい人」なのか、「距離を置きたい人」なのか、という点です。まずは会話をしながら、その距離感を測っていました。

あるキャプテンは、もっと自分の懐に入れというか、「俺に対してもどんどん意見を言ってこい」というタイプでした。どちらかというと、クルーと友達感覚に近い距離でいたい人ですね。一方で、別のキャプテンは、明確に一線を引いていました。「俺たちは友達じゃないんだぞ」というスタンスで仕事を進めたいタイプでした。

C/Oも基本は線引きをするタイプでしたが、オフィサー陣とはいつでも相談できる関係を築きたいと考えているようでした。仕事上ではフレンドリーに接したい、という感じですね。

−− なるほど。どのあたりが相手の境界線なのかを探って、それに合わせて接していくということですね。

はい。他にも「イライラスイッチがどこについている人なのか」も見ていました。この点は感情を出さない人の方が何を欲しているのかを掴みづらくて、距離感の取り方が難しかったです。

−− 穏やかな人の場合は聞きづらい時があった、とアンケートに書いておられましたが、それも今の話に繋がりますか?

はい。本来なら、情緒が安定していて怒らない人の方が聞きやすいはずなんです。でも、自分が聞きづらく感じてしまったのは、相手のことが掴めなくて「深読み」しすぎてしまったからかもしれません。

−− 深読み、というと。

表では穏やかだけど、裏で「お前、こんなことも分かってないのか」と思われているんじゃないか……と不安になってしまって。怖いタイプの人なら「お前アホか!」とパンと言ってくれるので、そこまで深読みせずに済むんですけど。後に、そのような人ではないということが分かり、自分の錯覚だったと気づきましたが、それが分かるまでは深読みしてしまいました。

上司が何を考えているのかを率直に共有してくれると若手は安心する

通信が途切れた瞬間に、「世界」が自船だけになる

−− 船内のインターネット環境についてもお聞きしたいのですが、通信環境が不調になったとき、外部に助けを求められず不安になったと伺いました。外部とは具体的にはどういった相手でしょうか?

家族や恋人も含めた、船の外にいる人たち全員というニュアンスです。違う会社で船に乗っている同期も含まれます。

−− なるほど。同期も含めて、船の外側にアクセスできなくなることが辛かったのですね。

そうですね。船の外の世界に何も相談できなくなってしまった、というのが一番辛かったんです。自分がつながっている世界が、この船の上だけになってしまったような感覚でした。

−− 普段は同期とどのようなやり取りをされているんですか。現状を報告したりといった感じでしょうか。

はい。他愛もない情報共有なんですけど、やはり安心するんですよね。特に乗船中の同期とはよく連絡を取ります。自分が辛い思いをしている時に、相手も同じように苦労しているのを聞くと、「自分だけじゃないんだ」と思える。それだけで、気持ちが楽になりました。

−− エンジン(機関部)の同期ともやり取りされますか?

デッキ(甲板部)はもちろん、エンジンの同期もそうですね。でも、やっぱりデッキ特有の辛さみたいなものは、デッキ同士じゃないと100%は伝わらないんじゃないかな、と思うこともあります。

−− 甲板部には甲板部の、機関部には機関部の現場の空気や悩みがありますものね。そうした「分かり合える相手」との通信が物理的に遮断されると、逃げ場がなくなった感覚になったということでしょうか。

まさにそうです。外部との通信があるからこそ、船という閉鎖空間でもバランスを保てているんだなと、切れた瞬間に痛感しましたね。

ネットを通じた船外との交流は、乗船中の乗組員の「心」を安定させる

船の上で見失いがちな、自分を守るための行動

−− これまでのお話を伺って、乗船中は本当に必死に頑張っておられたというのが、ひしひしと伝わってきました。下船した今、冷静に振り返ってみて、「あそこまでやる必要なかったな」と思うこともありますか?

そうですね… 今振り返ると、みんなが働いているから自分も働かなきゃいけない、みたいな「空気」で動いている部分もあったと思います。

−− 誰かが動いていると、休んでいることに罪悪感を感じますか?

そうなんです。SMS (Safety Management System) に定められている通りであれば、本来、やることさえやれば、あとは休めばいいということになります。(4/Oの立場で何言ってるんだって感じなんですけど(笑)…)でも、現実には船の仕事ってある程度決まってはいる反面、自分で線を引かなかったら切りがない世界なんだと感じました。

−− 特にデッキは航海当直があるので、昼でも休む必要がありますが、一方で昼間は作業をしている人も多いです。その状況に休みにくさを感じましたか?

はい。無理に自分から仕事を追いかけて、自分で自分を苦しめていたな、と。今だから思います。

−− 「自分の時間を削ってでも、現場に居続けること」が、いつもプラスに働くとは限らないのですね。

はい。3/Oとして最低限やるべきこと……例えば消火設備の点検や、入港書類の作成。それが終わったら、もう割り切って寝たり、自分の時間にしたりした方が、結果的にもっと効率よく仕事が進んでいたはずなんです。

−− でも当時は、それができなかった。

新人だから、と力んだ気持ちもあったと思います。とりあえずブリッジに行こう、とりあえず何か作業を見に行こう、と。でも、今思えば、それは勉強というよりも周囲への気遣いだったのかもしれないなと。もっと自分の状態を考えて、時間の使い方をコントロールすべきでした。

−− 「この仕事さえ終われば、あとは休むのも仕事だよ」と言ってくれていたら、少しは楽になったと思いますか?

そうですね、そう言ってもらえると、もう少し肩の力が抜けたかもしれないです。

頑張りたい気持ちが大きい時こそ、あえて休む。そういう選択を勇気を出してする、させる。

おわりに

航海士として初めて乗船したその時間は、必死で、余裕のない日々だったのだろうと推察します。それでも自分に実力をつけよう、なんとか自分にできる仕事を見つけよう、上司と良好な関係を続けよう、と様々な場面でひたむきに努力した姿がインタビューを通じて伝わってきました。

私が特に印象に残ったのは、山田さんが評価されることを目的として動いていたわけではない点です。業務時間外でも上司と会話できる機会をつくり、雑務を拾い、小さなルーチンを引き受けながら、少しずつ距離を縮めていく。結果が出るかも分からない中で重ねた小さな努力の数々が、上司や船内全体にも伝わり、信頼関係が育っていったのだと感じます。

初めての乗船で「自分からできることを探す」というのは、簡単なことではありません。頑張りすぎたことも、遠回りに見えた努力も、どれも山田さんの実直さが現れていて、これからの経験に生きてくると思います。

船という業界は、時間が経ってもつながりが残る世界です。若手の頃に必死に積み上げたものは、その場限りで消えるのではなく、将来の人と人との信頼として形になっていく。そういう温かさが、この仕事・業界の魅力のひとつだと思います。

山田さんの頑張りも、きっと船内のみんなに届いているはずです。20年後、その時の出来事を笑いながら食事をする日が来るのではないかと思います。

今回、心のうちまで踏み込んだインタビューに率直にお気持ちを話してくださった山田さんに、心から感謝申し上げます。山田さんが自分らしさを生かして、これからも活躍を続けていかれることを願っております。

最後に、この記事が乗組員間、世代間、そして陸上と海上の理解の架け橋に少しでもなれば幸いです。

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